肺炎は、気管支より末梢の酸素と二酸化炭素を交換する
細菌性肺炎というのは、その原因になる微生物が細菌であるという意味です。
肺炎は、病院に入院している人に起こる
細菌性肺炎では、肺胞にまで細菌が到達することが第一の条件ですが、その経路は気道を通って侵入する(経気道感染)場合がほとんどです。まれに血液の循環を介して肺胞に到達し、肺炎を起こす場合があります(血行性感染)。
経気道的に侵入する場合は、
また、もともと肺に慢性の病気のある人や喫煙などで気道に障害のある場合は、侵入してきた異物を除去する機能が低下しているために肺炎を起こしやすく、また重症化もしやすいので、注意が必要です。
細菌性肺炎の原因菌は肺炎球菌が最も多く、次いでインフルエンザ菌です。そのほか、黄色ブドウ球菌やクレブシエラ菌が原因になります。肺炎球菌(図10)は健康な人にも肺炎を起こしますが、クレブシエラ(図11)による肺炎はアルコール依存症や糖尿病の患者さん、高齢者に起こりやすいといわれています。黄色ブドウ球菌は、冬のインフルエンザウイルス感染のあとにみられることもあります。
細菌性肺炎の症状としては、発熱、
咳と痰という症状の共通する気管支炎に比べ、高い発熱や胸痛、呼吸困難などは肺炎を疑わせる症状です。医療機関へのできるだけ早い受診をすすめます。
最も有用な検査は胸部X線です。しかし、X線像に影がある場合でも、それが微生物の感染による肺炎であるのか、あるいは感染症以外の陰影――たとえば肺がんや薬剤に対するアレルギー反応など――であるのかどうかは、症状や診察所見、
感染症としての肺炎である場合は、その原因が一般の細菌による感染症なのか、マイコプラズマやクラミジア、ウイルスなどの一般細菌以外の肺炎なのかの原因微生物特定のための細菌学的検査が必要です。これには、喀痰の培養や血清中の抗体価の測定が行われます。最も簡単な原因細菌の推定法は、喀痰の
原因細菌を推定するには問診も重要です。たとえば、温泉旅行に行ったことがある場合には、レジオネラ肺炎を疑わなければなりません。基礎疾患に関しては、糖尿病や副腎皮質ステロイド薬の投与など、感染しやすい免疫状態の変化も重要な情報です。
治療法の選択には、肺炎の重症度も考えなければなりません。肺炎の重症度は、年齢や脱水の有無、呼吸困難、意識障害および血圧などで判断します。図12に、日本呼吸器学会のガイドライン(2006年)による「市中肺炎の重症度分類」を示します。また、検査がすぐに可能であれば、白血球数やCRP(炎症の強さを示す数値)の増加の程度や、腎臓や肝臓の障害の程度なども参考に重症度を判断します。
最近、肺炎球菌やレジオネラによる肺炎の場合は尿中抗原の検出が可能になりました。これは尿のなかの細菌の抗原を検出する方法で、簡便で迅速な検査法です。とくに重症肺炎の場合は尿中抗原の検出は有用です。
区別すべき最も重要な肺炎として、
まず、外来で治療するか入院するかを決めます。軽症で通院が可能であれば経口薬の投与が、中等症以上で入院が適切だと思われた場合は注射による治療が選択されます。入院でも重症度が高度の場合、集中治療室への入院がすすめられます(図12)。また、基礎疾患があったり高齢者の場合は、軽症でも入院して治療し、軽快する傾向を確認したうえで外来治療にするほうが安全だと考えられています。したがって、入院か外来治療かは、重症度ばかりでなく、家庭での看護の状況や基礎疾患に伴う重症化の可能性も考慮して、医師が判断することになります。
細菌性肺炎では、原因になっている細菌に合わせた適切な抗菌薬を選択することが治療の基本です。肺炎球菌や黄色ブドウ球菌といったグラム陽性菌と、インフルエンザ菌やクレブシエラなどのグラム陰性菌では、選択する抗菌薬の種類が違ってきます。また、その施設や地域によって、同じ種類の細菌でも薬剤に対する感受性が異なるため、その点も考慮しなければなりません。とくに、抗菌薬に
たとえば、これまで細菌性肺炎で最も頻度の高い肺炎球菌にはペニシリン系の抗菌薬がよく効いていたのですが、最近、ペニシリン耐性肺炎球菌という耐性菌の頻度が増え、抗菌薬治療が難しくなってきています。そのため、重症や基礎疾患のある人、高齢者では、経口薬ではニューキノロン系が、注射薬ではカルバペネム系が選ばれます。このように、重症度、基礎疾患、耐性菌の頻度などを総合的に判断して、抗菌薬の投与法や種類が選択されます。
進行の急激な重症の肺炎の場合、レジオネラ肺炎を疑うことが大変重要です。レジオネラ肺炎の場合、通常よく選択されるセフェム系などの抗菌薬では無効で、マクロライド系、ニューキノロン系、リファンピシンといった抗菌薬を優先的に選択し、すばやく投与する必要があります。レジオネラ肺炎の場合は、疑うか、疑わないかで生死が分かれるといっても過言ではありません。とくに、肺炎になる前の1~2週間の間に温泉旅行に行ったことのある人、あるいは透析中などの、免疫に影響する治療を受けている人では注意が必要です。
前にも述べましたが、咳と痰だけでは肺炎と気管支炎のいずれであるかは区別できませんが、発熱が高く、胸痛、呼吸困難などがあれば肺炎の疑いがあるので、すぐに医療機関を受診してください。そこで診察し、X線検査を行い、重症度に応じて入院の是非や専門病院への転送などを判断します。
ただし、意識障害や呼吸困難、チアノーゼ、血圧の低下などが認められた場合は、重症肺炎の兆候です。重症肺炎は進行が速く、治療が間に合わないこともあるため、緊急に医療機関を受診してください。
朝野 和典
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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