胸部の病気で発生するおもな症状の一つ。なんらかの病変が神経にある刺激を与えたとき,痛みとして感じられる。しかし,胸部のすべての部分に,痛みを感ずる神経が分布しているわけではない。とくに胸部で最大の臓器である肺には,感覚神経が分布していないため,病気が肺内にとどまっているかぎり,痛みは感じない。肺結核,肺癌,肺膿瘍など,肺内に明らかな病変があっても痛みを感じないのはこのためである。ところが,胸壁や胸膜,気管,太い気管支,心臓,大血管には痛みを感ずる神経があるので,その部分の病変や肺の病変がこの部分に進展してくると,痛みとして感じられるようになる。
胸壁の皮膚,筋肉,肋骨,胸膜などの外傷,炎症,腫瘍では,その発生部位に痛みを感ずる。痛みの性質は病変の種類により異なる。胸壁の神経のうち,肋骨の間を走行する神経(肋間神経)の病気では,その走行に一致して,刺すような痛みを感ずる。これが肋間神経痛である。同じような症状を示すものに,神経区域に一致して,発疹を発生するウイルス性疾患の帯状疱疹がある。以上のような部位に起こる痛みは,胸の比較的表面に近い場所に発生する痛みで,表在性の胸痛ともいう。胸の奥に存在する心臓,大血管,気管,気管支の病気で生じる痛みは,胸の比較的深いところから発するため,深部痛ともいう。そのなかで,とくに心臓から発生する痛みは,他の胸部の痛みと発生形態,治療が特異であるため,心臓痛cardiac painとして区別される。心臓痛で最も大切なものは狭心痛である。これは,心臓の血管の狭窄あるいは閉塞によって,心臓に酸素不足が起こることから生じる痛みで,生命の危機に直接関連するため,とくに重要視される。左胸部に感ずる〈しめつけられるような〉痛み,または〈絶望的な〉痛みと表現される。胸部の大血管が破裂しても,激烈な痛みが起こる。たとえば胸部大動脈瘤が破裂した場合である。心臓痛とともに生命危機に直接かかわる疾患であるから,とくに狭心症,心筋梗塞(しんきんこうそく)の心臓痛とともに重要視しなければならない。以上のような胸部の痛みについては,その原因を確定して,治療を行うことが基本である。
→痛み
執筆者:吉竹 毅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
胸部に感ずる痛みは患者の訴える症状のなかで、かなり頻度が高く、たちのよいものや悪いものもある。緊急処置を必要とする胸痛は、心筋梗塞(こうそく)、肺梗塞、緊張性気胸の三つである。
肺には知覚神経がないので、肺だけに限局する病変では痛みをおこさない。肺の病変が胸膜、肋骨(ろっこつ)などの隣接組織に波及すると、胸痛がおこる。肺に起因する胸痛で激痛がおこるのは気管支異物と肺梗塞で、臨床的意義の大きいのは原発性肺癌(がん)である。肺癌が胸膜からさらに胸壁に浸潤して肋間神経に及ぶと痛みは激しくなる。胸膜疾患では胸痛を訴えることが多く、とくに深吸気時に痛みを増す。おもな疾患は胸膜炎と自然気胸である。肺動脈に塞栓がおこると肺塞栓とよばれ、大きな塞栓では胸痛、呼吸困難をおこす。
心臓の異常によっておこる胸痛の代表は、狭心症と心筋梗塞である。心筋梗塞の痛みは絞扼(こうやく)感(締め付けられるような感じ)であるが、解離性大動脈瘤(りゅう)の胸痛は突然おこり、引き裂かれるような激痛である。なお、胸壁におこる胸痛としては、冷膿瘍(のうよう)、帯状疱疹(ほうしん)、肋骨骨折などによるものがある。
[山口智道]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報
…これに対し,明らかな肺結核病巣が胸膜に波及して生じた胸膜炎は随伴性胸膜炎とよばれる。
[症状・診断]
胸痛,発熱,呼吸困難がおもな症状である。徐々に発症することが多いが,突然発症することもある。…
…また第21王朝(前1000ころ)のある女性のミイラの古病理学的研究によると冠状動脈硬化の所見が得られた。日本でも《医心方》(10世紀)第6巻には,急激に発症した〈胸痛〉(卒心痛)に対処する方法が書かれている。藤原道長は53歳のとき〈胸病〉を発病し,数十回もの発作におそわれたが,これは心悸亢進,心臓疼痛を伴う心臓神経症と推定される。…
※「胸痛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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