日本大百科全書(ニッポニカ) 「胃性下痢」の意味・わかりやすい解説
胃性下痢
いせいげり
胃になんらかの原因があっておこる下痢で、胃液低酸(胃酸減少)の場合が多いが、高酸(過酸)のこともある。低酸や無酸で下痢がおこる仕組みには、腸内常在菌の上行性移動と異常増殖のほか、胃液中のペプシンの活性化不全、十二指腸粘膜から分泌される胃腸ホルモン(セクレチン、コレシストキニン・パンクレオザイミン)の放出低下に伴う膵液(すいえき)や胆汁の分泌不全でおこる消化吸収不良などが関与している。低酸は慢性胃炎や老化現象としての胃粘膜萎縮(いしゅく)(胃腺(いせん)の減少)によっておこる。特殊なものにWDHA症候群がある。WDHAは水様下痢、低カリウム血症、胃液無酸の略称で、セクレチン類似のポリペプチド(VIP)を産生する細胞の腫瘍(しゅよう)である。無胃性下痢は胃切除術後にみられる下痢で、切除範囲が大きいほどおこりやすく、ビルロートⅡ法(十二指腸を空置した胃‐空腸吻合(ふんごう))で再建した場合にも消化吸収障害、下痢がおこりやすい。これは低酸に加えて胃腸ホルモン(ガストリンやセクレチンなど)放出刺激がおこらないためである。
なお、高酸性下痢はガストリン生産細胞の腫瘍であるゾリンジャー‐エリソンZollinger-Ellison症候群でみられる。
[細田四郎]