腫瘍(読み)しゅよう

精選版 日本国語大辞典 「腫瘍」の意味・読み・例文・類語

しゅ‐よう ‥ヤウ【腫瘍】

〘名〙 からだの細胞が周囲組織と無関係にかってに増殖した病的組織。発育が比較的おそく、それ自体が大きくなるだけの良性のものと、癌腫や肉腫に代表されるように細胞の分裂速度が速く周囲の健康組織に浸潤したり、遠隔組織に転移したりする悪性のものとがある。
※形影夜話(1810)上「肝の痞塞腫瘍も、胃の気脹滞食も」

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デジタル大辞泉 「腫瘍」の意味・読み・例文・類語

しゅ‐よう〔‐ヤウ〕【腫瘍】

身体の一部の組織や細胞が、病的に増殖したもの。ほとんどの場合、増殖した細胞がはれ物をつくるが、白血病のように塊をつくらないものもある。筋腫脂肪腫などの良性腫瘍と、癌腫がんしゅ肉腫などの悪性腫瘍とがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腫瘍」の意味・わかりやすい解説

腫瘍
しゅよう

腫瘍は炎症とともに病理学的に重要な病変とされるばかりでなく、医学的にみても人間の病気は、炎症であるか腫瘍であるかの二つといっても過言ではない。腫瘍の本態についての概念として、現在一般に理解されている点をまとめると次のようになる。すなわち、生体を構成している生理的な組織細胞が種々の原因によって、本来の生物学的特徴あるいは性格を変えて、非可逆的にして自律的な過剰な増殖を示すようになった状態を腫瘍ということができる。ここで非可逆的というのは、原因が除かれても元に戻らないということであり、自律的な増殖とは、生体全体としての規律とか調和とかを無視した腫瘍自体のルールに従った異常な発育を意味している。このような状態になったものが腫瘍であり、これを構成している組織が腫瘍組織、構成している細胞が腫瘍細胞ということになる。逆に腫瘍側からみれば、元の生理的な正常な組織・細胞が腫瘍の母組織・母細胞ということができる。したがって、一般に腫瘍は、その母組織の名前末尾に「腫」(-oma)をつけてよばれている。脂肪組織に発生した腫瘍を脂肪腫lipomaというのがその一例である。

 腫瘍の原因は単一なものではなく、多様な因子が組み合わさっていると考えられるが、通常、外因と内因とに分けられる。外因としては、舌癌(ぜつがん)の場合のような機械的刺激、実験的な皮膚癌として有名なコールタールの中に含まれている化学的物質などの化学的刺激、X線、ラジウムなどの物理的刺激、動物の腫瘍の場合のようなウイルスの感染などがあげられており、内因としては、素因(ある病気に対してかかりやすい性状)、遺伝、ホルモン異常などが重視されている。

[渡辺 裕]

腫瘍の形態

腫瘍は多種多様の形態を呈し、いぼ状、茸(たけ)状、ポリープ状、乳頭状、樹枝状、ハナキャベツ状などで、大きさもさまざまであり、一般に臓器の内部に発生すると結節状となることが多い。腫瘍は、血液の含有量、色素、脂肪変性、壊死(えし)の存在などによって多彩な色調を示すこともあるが、腫瘍本来の色は、普通、灰白色である。また腫瘍は、骨腫、軟骨腫などは硬く、脂肪腫、粘液腫などは軟らかいなどのように、種類によって種々の硬さを呈する。なお腫瘍の中に存在する結合組織の量や、壊死、石灰変性などの変化も硬度に影響する。腫瘍をみた医師は、その部位、大きさ、形、数、色調、硬度、さらに周囲組織との癒着などを調べ、その所見を記載し、記録しておかねばならない。以上が腫瘍のいわゆる肉眼的所見であるが、腫瘍を顕微鏡的、すなわち組織学的に観察すると、腫瘍は、腫瘍の主体をなす細胞、つまり腫瘍細胞の集団である実質と、これらの間に存在して腫瘍を支持し、栄養を与える血管、結合組織からなる基質(間質)とから成り立っていることがわかる。

 一般に腫瘍細胞は、多少にかかわらず母細胞に類似性をもっている。正常な細胞は種類によって、それぞれの生物学的特徴、つまり形質を有しているが、これらの母細胞が腫瘍細胞に転化すると、その形質がなお維持されていたり、また脱落してしまったり、さらに新しい形質が付加されたりして、母細胞との類似性は、実際には複雑な様相を呈することが多い。しかし、腫瘍細胞が正常の細胞に比較して、細胞質のわりに核が大きくなり、核の染色質も増え、さらに細胞の大きさが不ぞろいとなり、細胞の配列も乱れ、核分裂(剖)像もしばしば認められるようになると、腫瘍細胞は母細胞に類似していないようになる。このような状態を、病理学的に異型性と総称している。この異型性という所見は腫瘍にとって重要な特徴で、異型性が多い、あるいは強いという表現は、腫瘍の性質上、たちが悪い、すなわち悪性腫瘍を意味すると広く認識されている。

[渡辺 裕]

腫瘍の発育と転移

腫瘍は腫瘍細胞の分裂によって増殖、発育するわけであるが、周囲の組織を押し広げ圧排するように発育する拡張性あるいは膨張性発育と、腫瘍細胞が周囲の組織・細胞の間に浸潤しながら発育する浸潤性発育との二つの発育形式が区別されている。また、腫瘍の発育の速さも種類によってまちまちで、数か月でどんどん大きくなるというように、発育速度の迅速なものもあれば、逆に数年たっても大きさがほとんど変わらないというように、発育速度の緩徐なものもある。腫瘍細胞が初めて発生した部位、すなわち原発部位(原発巣)から遠く離れた場所に幾通りかの方法によって運ばれて、そこでまた新たに発育するような広がり方を転移とよび、その場所を原発巣に対して転移巣と表現するが、この転移という現象は腫瘍の生物学的特徴としてもっとも重要なものである。実際に脳に腫瘍を発見した場合でも、それは脳に原発した腫瘍である場合と、肺などの他の部位に原発した腫瘍が、脳に転移巣をつくった場合とがあり、臨床医学的にもこの点は十分注意しなければならない。転移は、転移をおこす方法によって、次のように分類されている。すなわち、リンパの流れを介して転移する「リンパ性転移」、血液・血行を介する「血行性転移」、気管支などの管腔(かんくう)を介する「管内性転移」、上唇の腫瘍がこの部位に触れる下唇に広がる、つまり接触によって移植されたと理解される「接触性(移植性)転移」、さらに、腹腔などの体腔のなかにばらまかれたように広がる「播種(はしゅ)(播種性)転移」である。

 腫瘍は、これまで述べてきたような概念のものであるため、生体に自律性をもって寄生しているとの理解も成り立ち、腫瘍を有する個体を宿主あるいは担腫瘍体とよぶこともある。したがって、腫瘍の生体に及ぼす影響は軽視できない。とくに悪性腫瘍が発生すると、個体の皮膚の色つやが悪くなり、食欲減退とともに、栄養障害、貧血、浮腫などの全身状態の悪化をきたし、やがては死に至る悪液質または悪態症とよばれる状況を招来することとなる。

[渡辺 裕]

腫瘍の良悪性

腫瘍は、発生した臓器や個体に著しい影響を及ぼすものを悪性腫瘍、そうでないものを良性腫瘍と分類される慣習があり、腫瘍の良悪性の区別は医学的に重要である。すなわち、悪性腫瘍は良性腫瘍に比べて一般に異型性が強く、浸潤性発育をとることが多く、良性腫瘍はもっぱら拡張性発育を示す。悪性腫瘍は良性腫瘍に比べて発育速度が大きく、転移を呈し、しばしば再発する。良性腫瘍はまったく転移をせず、再発もほとんど認められない。ただし、良性腫瘍でも手術による摘除が不完全であれば容易に再発する。また、悪性腫瘍は悪液質などのように全身状態に影響を与えるが、良性腫瘍ではこのようなことはない。もちろん、良性腫瘍でも、その発生部位が中枢神経などのような生命維持に重要な組織・臓器であるときには、生命にかかわるものとなる。腫瘍はこのように良性腫瘍と悪性腫瘍とに分類されるほかに、発生母組織によって上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍とに大別される習慣があり、この2種類の分類の組合せによって、病理学的には、良性上皮性腫瘍、良性非上皮性腫瘍、悪性上皮性腫瘍、悪性非上皮性腫瘍に分類されている。良性上皮性腫瘍には乳頭腫、腺(せん)腫、嚢(のう)腫があり、良性非上皮性腫瘍には線維腫、脂肪腫、軟骨腫、骨腫、筋腫、血管腫などが含まれ、悪性上皮性腫瘍は癌腫(癌)であり、悪性非上皮性腫瘍は肉腫である。

 なお、癌腫は、組織学的に、癌細胞が未分化でどのような正常上皮にも類似が得られない未分化癌または単純癌、癌細胞がある程度分化していて扁平(へんぺい)上皮に類似している扁平上皮癌、腺上皮に類似が求められる腺癌、さらに特異な構造を有し、一定臓器の構造に類似している腎(じん)細胞癌(あるいはグラウィッツGrawitz腫)、ヘパトーマ(肝細胞癌)、悪性絨毛(じゅうもう)上皮腫(絨毛癌)などに分けられる。肉腫も、未分化肉腫あるいは単純肉腫と、一定の非上皮性組織に類似している線維肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、筋肉腫、血管肉腫などに分類されている。以上の分類のほか、リンパ節・脾臓(ひぞう)・骨髄などの造血臓器や、神経組織、および睾丸(こうがん)・卵巣という性腺に発生した腫瘍は、便宜的に特殊腫瘍として特別扱いをする慣習がある。さらに、腫瘍の実質が二つ以上の種類の細胞要素から成り立っているものを一括して混合腫瘍とよび、もっとも複雑なものには奇形腫という名称が与えられている。

[渡辺 裕]

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百科事典マイペディア 「腫瘍」の意味・わかりやすい解説

腫瘍【しゅよう】

生体の正常細胞が自律的に過剰に増殖するように変化したもの。臨床的に良性と悪性に分類され,悪性腫瘍は特に肉腫と呼ばれる。良性腫瘍は浸潤や転移を起こさず,発育が遅く膨張性に増殖。腫瘍の構造は,固有成分である実質と血管を含んだ支持組織からなり,両者の区別の明らかなものと,入りまじっているものとがある。前者は腫瘍の実質が上皮性細胞から発生したもの(癌など),後者は非上皮性細胞(結合組織,血管,筋,骨など)から発生したもの(肉腫など)にみられる。腫瘍は,正常組織と質的に全く異なる成分や酵素はもたないが,各種の酵素活性に強弱の差がある。癌の場合,エネルギー生産が酸素呼吸より解糖に依存し,新しい抗原性をもつ。原因は,内因として腫瘍ができやすい素質があることは否定できない。外因としては,職業癌にみられる外的刺激,化学物質(発癌物質),放射線や,やけどウイルスなどがある。治療は,外科的に腫瘍を取り除くことが確実。
→関連項目悪性腫瘍インシュリノーマウイルムス腫瘍巨大結腸症喉頭ポリープ子宮筋腫子宮出血絨毛上皮腫神経膠腫神経鞘腫繊維腫乳頭腫脳腫瘍皮膚癌頻尿粉瘤ポジトロン断層撮影法マンモグラフィー耳だれラジウム療法卵巣腫瘍老人病

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普及版 字通 「腫瘍」の読み・字形・画数・意味

【腫瘍】しようよう(やう)

はれもの。できもの。〔周礼、天官、瘍医〕腫瘍・潰瘍(膿血を含むもの)・金瘍(刀創)・折瘍の(しゆやく)(塗薬)、(くわつさつ)の齊(剤)を掌る。

字通「腫」の項目を見る

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改訂新版 世界大百科事典 「腫瘍」の意味・わかりやすい解説

腫瘍 (しゅよう)
tumor

異常な細胞が過剰に増生してできる組織の塊をいう。このうち浸潤や転移を起こさず,成長に限界のあるものを良性腫瘍,そうでないものを悪性腫瘍といい,後者が癌である。腫瘍の種類,発生機構,性状など,詳細については〈〉の項を参照されたい。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腫瘍」の意味・わかりやすい解説

腫瘍
しゅよう
tumor

本来はすべてのはれものの意味。現在では,既存の組織の1個の細胞から発生しながら,その組織がもつ自然の発育速度や規制から離れて独自の成長を示し,生理的意義をもたない,自律的な新生物をいう。直接には生命に危害を及ぼすおそれのない,多くは発育自動抑止性を示す筋腫,脂肪腫などの良性腫瘍と,転移を形成し,無秩序,無制限な細胞分裂を営み,生命を奪う癌腫,肉腫などの悪性腫瘍に分けられる。悪性腫瘍はさらに,上皮性悪性腫瘍 (癌) と非上皮性悪性腫瘍 (肉腫) に分けられる。

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栄養・生化学辞典 「腫瘍」の解説

腫瘍

 生体自身に由来する細胞で,過剰な増殖をするもの.良性のものと悪性のものがあり,後者をがんという.

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世界大百科事典(旧版)内の腫瘍の言及

【癌】より

…白血病では,癌は血中を流れたり,組織に瀰漫(びまん)性に入り込んでいて,必ずしも形をなさない。
【癌の種類】
 異常な細胞が過剰に増生してつくる組織の塊を,腫瘍tumorあるいは新生物neoplasmという。腫瘍のうち,浸潤や転移を起こさず,成長にも限界があるものを良性腫瘍,そうでないものを悪性腫瘍という。…

【発疹】より

…丘疹の頂点に水を含むのを漿液性丘疹といい,いわゆる〈かぶれ〉〈湿疹〉の接触皮膚炎のときにみられる。(3)結節nodule 丘疹より大型の,皮膚の盛り上がった病変で,とくに大型のものを腫瘤tumorともいう。(4)水疱,小水疱vesicle∥bulla 〈水ぶくれ〉で,内容物は透明で黄色調である。…

【癌】より

…白血病では,癌は血中を流れたり,組織に瀰漫(びまん)性に入り込んでいて,必ずしも形をなさない。
【癌の種類】
 異常な細胞が過剰に増生してつくる組織の塊を,腫瘍tumorあるいは新生物neoplasmという。腫瘍のうち,浸潤や転移を起こさず,成長にも限界があるものを良性腫瘍,そうでないものを悪性腫瘍という。…

【病変】より

…これは,病気に対する生体の態度が受動的であるか能動的であるかによって病変を大別する立場で,前者を退行性病変,後者を進行性病変とする。これに加えて,生れながらの病的状態である奇形,血液やリンパ液の流れの異常を契機とする循環障害,病因に対する防御反応としての炎症,細胞増殖機構の異常の結果起こる腫瘍の6群を基本的病変としている。
[伝統的な病変分類]
 (1)退行性病変は,障害因子の作用が生体の反応よりも強いために起こる変化であって,極型は死である。…

※「腫瘍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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