膵奇形

内科学 第10版 「膵奇形」の解説

膵奇形(膵疾患)

(1)膵の発生
 膵臓は胎生4週に背側膵原基および腹側膵原基として発生し,その後それぞれ背側膵管および腹側膵管が形成される(図8-9-1A).胎生6~7週に腹側膵原基は十二指腸とともに時計まわりに(右側から背側へ)回転し背側膵原基と癒合する(図8-9-1B).膵管も癒合し,腹側膵管と,これと癒合した部位より遠位側の背側膵管が主膵管を形成し,主乳頭から十二指腸へ開口する(図8-9-1C).近位側の背側膵管は副膵管として副乳頭から十二指腸へ開口する.膵の先天奇形はこの過程のいずれかの段階での異常により生じる.
(2)膵体尾部欠損
 膵の体尾部が欠損する,きわめてまれな先天性の異常であり,胎生期の背側膵原基の形成不全または無形成により生じる(図8-9-1D).
 膵組織の絶対量不足による膵内・外分泌機能不全症状を呈する.多くの症例でインスリン治療を要する糖尿病を認めるが,外分泌機能低下の症状は軽微である.
 CT,超音波検査や手術時,剖検時に膵体尾部の欠損がみられる.内視鏡的逆行性胆道膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)では主乳頭造影で短小膵管像を呈し,血管造影で膵体尾部の支配動脈が認められない.
(3)輪状膵(annular pancreas)
 膵組織が十二指腸下降脚を完全または不完全に取り囲む奇形である(図8-9-1E).原因は腹側膵原基の回転の際の異常と考えられている.すなわち腹側膵原基の回転の過程で,膵実質の一部が取り残され引き延ばされて起きる.ERCP施行例の約0.1%で発見される.
 発症時期により新生児型,小児型,成人型に分けられる.新生児型,小児型では十二指腸狭窄の程度が高度であり,頻回の嘔吐,上腹部膨満などの高位腸閉塞症状を呈する.立位腹部単純X線検査でdouble bubble sign(胃泡と十二指腸球部ガス像)を認める.新生児型では種々の先天奇形を高率に合併する.成人型では狭窄の程度が軽いものも多い.十二指腸狭窄や,これによる合併症である胃十二指腸潰瘍(狭窄による胃内容停滞が原因)や急性膵炎(膵管走行異常による膵液うっ滞が原因)がみられる.上部消化管造影で十二指腸下行脚の狭窄を認め,CTでは十二指腸下行脚を取り囲むように膵頭部から連続して膵実質がみられる.ERCPにより環状の膵管を描出できれば診断が確定される.
 治療として,胃空腸吻合術や十二指腸空腸吻合術などの消化管バイパス手術が行われる.
(4)膵管癒合不全(pancreas divisum)
 腹側膵管と背側膵管の正常な癒合が行われない奇形で,両者の間に交通を認めず,それぞれ独立して十二指腸に開口する(図8-9-1F).剖検例やERCP例の1~6%にみられ,膵奇形のなかでは頻度が高い.
 膵管癒合不全では,膵実質の多くを占める背側膵の膵液のドレナージを背側膵管のみが担当する.その開口部である副乳頭は主乳頭よりも小さく,機能も低下していることが多いため,背側膵管内で膵液がうっ滞する可能性がある.多くの症例では無症状であるが,背側膵領域の急性膵炎を生じたり,さらに急性膵炎を繰り返して慢性膵炎に移行する症例もある. おもにERCPにより診断される.主乳頭造影では,短く細い,馬尾状に終わる腹側膵管のみがみられる.副乳頭造影で背側膵管が膵尾部まで描出され,腹側膵管との交通がないことにより確診される.
 急性膵炎を繰り返す症例では,内視鏡的副乳頭切開術や外科的副乳頭形成術を行う.[杉山政則]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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