急性膵炎(読み)キュウセイスイエン

内科学 第10版 「急性膵炎」の解説

急性膵炎(膵疾患)

定義・概念
 急性膵炎とは,膵酵素が何らかの原因によって膵内で病的な活性化を受け,膵臓と周囲組織を自己消化する急性病変である.
 軽症の膵炎では炎症は膵に限局し,自然軽快傾向が強く致命率は低い.一方,炎症が膵局所にとどまらず,腹腔内に広く進展すると,発症早期には循環不全,腎不全呼吸不全などの多臓器不全(multiple organ failure:MOF)を合併しやすく,発症2週以降には敗血症などの重症感染症の合併頻度が高まる.このような病態が重症急性膵炎であり,予後が悪い.
分類
 臨床的には,軽症と重症に分類される.病理・形態学的には,膵の血流障害を伴わず間質の浮腫を主体とする浮腫性膵炎(図8-9-2)と,膵の血流障害によって膵内に出血や壊死を伴う壊死性膵炎(図8-9-3)に分けられ,後者は重症化しやすい.成因別には,アルコール性,胆石性,原因が明らかでない特発性などに分類される.
原因・病因
 アルコール性が急性膵炎全体の32%,胆石性が25%,特発性が17%であり,これらで全体の70%以上を占める(厚生労働省難治性疾患克服研究事業 難治性膵疾患に関する調査研究班,2008).男性では成因の43%がアルコール性であるが,女性ではアルコール性の頻度は10%弱と少なく,胆石性と特発性がそれぞれ35%,25%を占める.その他,頻度は少ないが,術後膵炎や診断的ERCP,内視鏡的乳頭処置に伴うもの,膵胆管合流異常,高脂血症,膵腫瘍,薬剤性,膵管癒合不全などがあげられる.
疫学・発生率・統計的事項
 2007年1年間の急性膵炎受療患者数は57560人と推定されており,近年急速に増加している.男女比は2:1で男性に多く,平均発症年齢は59.3±18.0歳だった.発症のピークは男性では50歳代に,女性では70歳代とより高齢層にみられる.重症例は急性膵炎全体の21.6%を占めた(厚生労働省難治性疾患克服研究事業 難治性膵疾患に関する調査研究班,2008).
病理
 軽症膵炎では,原則として膵実質の壊死はなく,膵周囲の脂肪壊死と小葉間の浮腫,多核白血球の浸潤がおもな所見である.重症例では,膵内外の高度な脂肪壊死と膵実質の壊死や出血が認められる.病理所見と臨床的重症度は必ずしも一致しない. 急性炎症が終息すると,壊死巣周囲に間葉系の反応による修復機転が働き,膵の滲出液,壊死物質や出血を被包した仮性囊胞をしばしば形成する.
病態生理
 膵腺房細胞は膵酵素を産生し,その多くはチモーゲン顆粒内で不活性な形で貯蔵される.膵酵素は食物摂取時に膵管を経て十二指腸に分泌され,生理的には十二指腸内で活性化され食物を消化する.このように膵内では不活性な膵酵素が病的に活性化され,膵および周囲臓器を自己消化する化学的炎症が急性膵炎である.蛋白分解酵素であるトリプシンが各種膵酵素の活性化に中心的な役割を演じる.膵酵素活性化の原因としては,アルコールの過剰摂取,胆石の十二指腸乳頭部への嵌頓,十二指腸液の膵管内逆流,膵外分泌の過剰刺激,外傷,ウイルス感染,高中性脂肪血症,膵虚血,膵管狭窄による膵管内圧の上昇など多様である.
 軽症の急性膵炎では炎症が膵に限局し,多くは1週間前後で自然軽快し,機能的にも形態的にも元に復する.一方,炎症が膵にとどまらずに腹腔内に広く進展すると,大量の活性化膵酵素が周囲臓器を自己消化してさまざまな炎症性メディエーターが産生される.これらは活性化膵酵素とともに血中やリンパに逸脱して膵から離れた重要臓器に及ぶ.このような病態では,全身の血管透過性が亢進し血漿成分が漏出して血管内は脱水となり,血液凝固能が亢進して臓器血流は障害される.また,活性化好中球が重要臓器に集積して組織を障害し,発症早期にはショック,呼吸不全,腎不全などを起こす.一方,発症2週以降には,おもに腸内細菌が全身へ移行し,膵壊死巣の感染や敗血症などの重篤な感染症が発症しやすくなる.このように重篤な全身性合併症を発症する急性膵炎が,重症急性膵炎(severe acute pancreatitis)である.
臨床症状
1)自覚症状:
典型例は上腹部痛で発症する.疼痛は徐々に増強して数時間でピークに達する.背臥位で増強し,強い前屈位(pancreatic posture)で軽減することが多い.急性膵炎の初発症状の頻度としては,腹痛が90%,悪心・嘔吐が約20%,背部痛が約10%で,そのほか発熱・悪寒,食欲不振,腹部膨満感などが2〜5%にみられる.高齢者ではまれに無痛性に経過することがあり,注意を要する.
2)他覚症状:
上腹部を中心とする圧痛がみられる.発症早期には上腹部に限局するが次第に腹部全体に広がり,腹膜刺激症状を伴うことが多い.発症後早期には,腹部激痛を訴えるわりに腹部所見が軽いことがあり注意が必要である.ほかの初発症状として発熱が5.0%,黄疸が1.2%,腸閉塞の頻度が0.8%と報告されている.発熱や黄疸は胆石性膵炎で頻度が高い.3%程度と頻度は低いが,出血傾向の徴候として特徴的な皮膚所見が認められることがある.腹腔内の出血性滲出液が臍周囲に及び皮下出血斑を起こすCullen徴候,側腹部を中心に皮下出血斑が広がるGrey-Turner徴候である.発症後2〜3日経ってから出現する.
検査成績
1)一般検査:
a)血算・凝固:白血球数が増加し,血管内脱水を反映して早期からヘマトクリット値が上昇する.重症例では,血液凝固系の異常や血小板数の低下がみられることがある.
b)膵酵素逸脱:発症早期から血中でアミラーゼリパーゼ,トリプシンなどの膵酵素が上昇する.血中アミラーゼは発症後,数時間で上昇しはじめ20〜30時間でピークとなり,軽症例では多くが5日以内に正常化する.尿中アミラーゼの上昇は,10〜20日持続する.診断には血中アミラーゼに,血中リパーゼのような膵に特異性の高い他の膵酵素の測定を併用することが推奨される.なお,血中膵酵素の上昇の程度は急性膵炎の重症度を反映しない.
c)血液生化学・血清:血糖,乳酸脱水素酵素(LDH),血液尿素窒素(blood urea nitrogen:BUN),クレアチニンの上昇,血清カルシウムや血小板数の低下が膵炎の予後と相関し,重症度判定の予後因子となる(表8-9-1).AST,ALT,総ビリルビン値の異常は胆石膵炎で頻度が高い.
 炎症反応として,血中C反応性蛋白(CRP)が上昇する.発症後48時間のCRPが15 mg/dL以上の場合,重症化の可能性を考慮する.
d)動脈血分析:動脈血ガス分析を行い,呼吸不全を早期に診断する.
e)SIRS徴候:SIRS診断基準に従って,各項目の有無を評価する.
2)画像検査:
 a)胸・腹部単純X線:急性膵炎患者の臨床経過の評価や,鑑別診断のために必須である.腹部X線所見として,イレウス像,炎症の波及による限局性空腸麻痺のため,左上腹部の局所的なアーチ状の小腸拡張像(sentinel loop sign)や,横行結腸の拡張と脾湾曲部での急激な途絶像(colon cut-off sign),後腹膜ガス像,石灰化胆石,膵石像などが認められることがある.胸部X線所見として胸水貯留像,ARDS像,肺炎像などがある. b)腹部超音波(US):急性膵炎が疑われるすべての症例に対し,最初に行われるべき検査の1つである.膵腫大や膵周囲の炎症性変化のほかに,腹水の有無,胆管結石総胆管拡張のチェックなど,急性膵炎の原因や病態に関連した異常所見がとらえられる. c)X線CT:膵腫大,膵周囲の炎症性変化,液体貯留,膵実質濃度の不均一などを認める.腎機能の悪化やアレルギー反応等に留意しながら,可能な限り早期に造影CTやダイナミックCTを行い,重症度と相関する膵壊死の有無やその範囲,炎症性変化の広がりを判定する(表8-9-2).
診断
 ①上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある,②血中または尿中に膵酵素の上昇がある,③超音波,CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある.これら3項目のうち2項目以上を満たし,ほかの膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する.慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める.
 軽症と重症では治療方針が大きく異なるため,発症後48時間以内に「急性膵炎の重症度判定基準(厚生労働省特定疾患難治性膵疾患に関する調査研究班,2008)(表8-9-1,8-9-2)に従って重症度を判定し,患者の病状を正確に把握する.この重症度判定基準は,9項目の予後因子による重症度判定と造影CTグレードによる重症度判定が独立しており,いずれかで重症と判定されれば,重症急性膵炎の診断が確定する.予後因子による重症度判定は,臨床徴候や最小限の血液検査項目によって判定できるよう工夫されており,急性膵炎初診時の重症度判定および入院後の経過観察に用いられる.急性膵炎の病態は時々刻々変化するため,臨床徴候や検査データを頻回にチェックし,重症度判定を繰り返し行って重症化を早期に診断することが大切である.
鑑別診断
 血中や尿中アミラーゼの上昇をしばしば伴い,腹痛を主症状とする疾患として,穿孔性消化性潰瘍,腸閉塞や腸破裂,解離性大動脈瘤,術後高アミラーゼ血症,糖尿病性ケトアシドーシス胆石症,傍十二指腸乳頭憩室炎などがあげられる.また,膵癌が膵管狭窄などにより急性膵炎を初発症状とすることがあり,高齢者の急性膵炎では注意を要する.心窩部激痛でショックを伴う場合,胸腹部の大動脈瘤破裂,解離性大動脈瘤や心筋梗塞なども念頭におく.
合併症
 重症急性膵炎では,発症2週以内に頻度が高いショック,呼吸不全,腎不全や多臓器不全などの早期合併症と,2週以降に頻度が増加する敗血症や感染性膵壊死,膵膿瘍などの重症感染症やこれらによる多臓器不全,仮性囊胞,仮性囊胞の感染や消化管穿破による消化管出血,腹腔内出血,腸管出血,肝不全などの後期合併症がある.
経過・予後
 軽症例の予後は良好で,2〜5日で腹痛は軽減し,2〜3週で自他覚的にもほぼ改善する.膵機能障害も残さないことが多い.
 急性膵炎全体の致命率は2.6%である.予後因子2点以下の軽症例の致命率は0%であったが,3点以上の重症例は19%,5点以上では致命率が50%に達した(厚生労働省研究班の2006年度前向き調査).造影CTによる重症度判定では,CT grade 1の症例には死亡例がなかったが,CT grade 2以上の致命率は14.8%であり,予後因子および造影CT gradeの両方で重症と判定された症例の致命率は30.8%に達した.予後因子3点以上の症例では造影CTを行い,予後不良例を検出することが大切である.
治療
 入院治療を原則とする.治療の要点は,速やかに初期治療を開始し,十分な輸液によって循環動態を改善・維持して多臓器不全の発症を予防すること,重症例やその可能性のあるものでは,早期より予防的に抗菌薬を投与して感染性合併症を予防することである.予後因子3点以上の重症例は,ICU管理,IVR(interventional radiology),持続的血液濾過透析(CHDF),胆石症に対する内視鏡治療,外科的治療,栄養サポートチームなどを備え,重症急性膵炎に対応可能な施設へ転送を行う.初期に予後因子スコアが2点以下であっても,重症度判定を繰り返し行い,重症と判定されれば搬送を考慮する(図8-9-4).
1)初期治療:
 a)輸液:軽症例でも血圧,脈拍,尿量の輸液への反応をみながら,乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液を基本として3000 mL/日以上を目安に十分な輸液を行う.
 重症例や重症化が懸念される急性膵炎症例には,初期輸液量として60〜160 mL/kg/日を設定し,最初の6時間に1日量の1/2〜1/3を投与する.意識状態,血圧,脈拍数,呼吸数,酸素飽和度,体温,尿量を経時的にモニタリングし,循環動態を評価して,時間尿量として最低0.5 mL/kg/hr以上を確保する. b)蛋白分解酵素阻害薬:活性化膵酵素を阻害して膵炎の進展を抑え,重症化を予防するために,ガベキサートメシル酸塩(FOY),ナファモスタットメシル酸塩(FUT),ウリナスタチン(UR)などの蛋白分解酵素阻害薬の点滴静注を開始する.重症膵炎ではDICやショックを合併することが多く,蛋白分解酵素阻害薬の大量持続投与やFOYとUR,FUTとURなどの2剤併用投与が行われる.
 c)疼痛治療:十分な疼痛の抑制をはかる.ブプレノルフィンやペンタゾシンの投与が推奨されるが,Oddi括約筋の収縮作用があるため,頻回に用いるときは硫酸アトロピンを併用する.より強力な鎮痛にはオピアトやパンアトなどの麻薬製剤も使用される.軽度の疼痛には,ジクロフェナクやインドメタシンの坐薬を用いる. d)胃酸分泌抑制:急性胃粘膜病変や消化管出血の合併例や合併する可能性がある症例に対してはH2受容体拮抗薬を投与する.
2)感染対策:
軽症例には抗菌薬の予防的投与は必要とされない.重症例や重症化が予測される症例では致命的な合併症である膵および膵周囲の感染症の発生頻度が高いため,膵移行性の高い広域スペクトラムをもつ抗菌薬を早期から予防的に投与する.カルバペネム系抗菌薬が推奨される. 胆道感染症の合併があれば,胆汁移行性を考慮して第2世代以降のセフェム系抗菌薬の投与が推奨される.
3)栄養管理:
軽症例には中心静脈栄養の有用性は認められない.比較的早期から経口摂取が可能である.症状が長引く場合,経腸栄養を試みる. 重症例には中心静脈栄養が行われることが多いが,空腸に留置した栄養チューブを介して早期から経腸栄養を行うことが推奨されている.耐糖能障害がある場合は,インスリンを併用する.
4)胆石性膵炎:
胆石性膵炎が明らかで,胆管炎や結石嵌頓による閉塞性黄疸がみられる症例では,緊急に内視鏡的乳頭切開術を行い,結石の除去,経鼻胆道ドレナージチューブの留置(ENBD)などの処置を行う(図8-9-5).胆石性膵炎では,再燃を予防するために,膵炎鎮静化後の胆囊摘出術が奨められる.
5)重症急性膵炎に対する特殊療法:
生命予後を改善する試みとして,以下に述べる特殊療法が行われている.十分な初期輸液にもかかわらず,循環動態が不安定で利尿が得られない症例には持続的血液濾過透析(CHDF)が行われる.重症例では,MOF惹起因子を血中から除去する効果も期待される.重症の壊死性膵炎に対しては,薬剤の膵組織濃度を高め,膵の炎症と感染を強力に抑制する目的で蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法が行われている.感染対策として,腸管内に留置したチューブから非吸収性抗菌薬を投与し,腸内細菌を選択的に根絶する選択的消化管除菌(SDD)も行われる.
6)外科的治療:
重症膵炎でも治療の原則は保存的治療であり,早期に外科手術が行われることはなくなった.保存的治療の経過中に,感染性膵壊死が疑われる場合には,CTあるいは超音波ガイド下に膵局所を穿刺し(FNA),吸引液の細菌学的検査を行う.感染性膵壊死が確認された場合,膵壊死組織を除去するネクロゼクトミーが必要となる.
 膵膿瘍,増大する仮性囊胞や症状を伴うもの,仮性囊胞で囊胞内出血や感染を合併した場合には,内視鏡的ドレナージや経皮的ドレナージ,外科的内瘻術を考慮する.[廣田衛久・下瀬川 徹]
■文献
厚生労働省難治性疾患克服研究事業 難治性膵疾患に関する調査研究班編:急性膵炎における初期診療のコンセンサス,アークメディア,東京,2008.急性膵炎診療ガイドライン2010改訂出版委員会:急性膵炎診療ガイドライン2010 第3版,金原出版,東京,2009.下瀬川 徹:厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班,平成20~22年度 総合研究報告書,2011.

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家庭医学館 「急性膵炎」の解説

きゅうせいすいえん【急性膵炎 Acute Pancreatitis】

[どんな病気か]
 膵臓(すいぞう)に急性の炎症がおこる病気で、膵臓でつくられ、不活性型として存在する消化酵素(しょうかこうそ)が、なんらかのきっかけにより膵臓内で活性化され、膵臓自身を消化してしまい、その結果としておこるさまざまな病態をさします。
 軽症のものは軽い腹痛だけですみますが、重症の膵炎では、血圧が下がり、ショック状態をきたすなど、心臓、肺、腎臓(じんぞう)、脳神経など全身の諸臓器もおかされ、致命的となることもある重篤(じゅうとく)な病気です。
[症状]
 上腹部が突然痛むのが特徴ですが、軽度の鈍痛(どんつう)から激痛(げきつう)まで、その強さはさまざまです。痛みの強いときには、腹部全体が痛み、背中にも関連する痛み(放散痛(ほうさんつう))を訴えます。痛みをやわらげるために膝(ひざ)を抱え込むように背中を丸める姿勢をとることが特徴的です。むかむかしたり、吐(は)いたりする症状などもしばしばみられます。
[原因]
 アルコールの多飲や胆石(たんせき)(「胆石症」)が、急性膵炎の主要原因となっています。約4分の1の症例では原因が不明で、これらは特発性膵炎(とくはつせいすいえん)と呼ばれますが、これらのなかには、臨床的には見つけることのできなかった胆石の症例も含まれていると考えられています。そのほかに手術後や、ERCP(「ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影法)」)という内視鏡的に膵管を造影する検査などの後、腹部外傷などにともなう膵炎があります。
[検査と診断]
 上腹部の腹痛の症状と、血液や尿、腹水(ふくすい)などの検査(膵臓由来の酵素であるアミラーゼやリパーゼなどの上昇)から、膵炎と診断されます。
 また、この2つがかならずしもそろっていなくても、そのうちの1つがあり、CTスキャンや超音波検査、あるいは手術所見などによって膵臓に病変があるときには、膵炎と診断されます。
 アミラーゼの増加は、膵炎だけではなく、虫垂炎(ちゅうすいえん)、尿管結石(にょうかんけっせき)、胆嚢炎(たんのうえん)、消化性潰瘍(しょうかせいかいよう)、腸閉塞(ちょうへいそく)、さらに子宮外妊娠(しきゅうがいにんしん)など婦人科臓器の炎症などを含め、腹痛をきたす急性腹症(きゅうせいふくしょう)と呼ばれる他の病気でもみられるため、診断には注意が必要です。
 重症膵炎の判定は、ショック、呼吸困難、神経症状、重症の感染症、出血傾向などの症状、および血液検査の成績の異常度、CTスキャンなどの画像診断所見などを参考に行ないます。
[治療]
 軽症や中等症の急性膵炎では、補液を行ない、絶飲食にしているだけで、とくに後遺症(こういしょう)も残さず治癒(ちゆ)します。軽快した後も、しばらくは脂肪を制限した食事を継続することが重要です。
 重症膵炎は、施設によって救命率がかなり異なり、ICU(集中治療室)などのある施設で厳重に管理することが望まれます。したがって、十分な診療態勢のとれない病院に入院したときには、転院についても考慮する必要があります。
 重症膵炎では、ICUでの厳重な管理が必要となりますが、それでも救命できないことも少なくありません。膵臓の安静をはかり、抗生剤治療を行ない、輸液を管理するなど、基本的には内科的な全身管理が主体となりますが、状況によって、透析(とうせき)や腹膜灌流(ふくまくかんりゅう)、外科的な手術などが必要となることもあります。
 総胆管(そうたんかん)にある胆石が原因の場合には、内視鏡的に胆管・膵管の出口を切開したり、結石を除去することにより、救命率が高められます。
[日常生活の注意]
 急性の疾患であり、治癒すればふつうの生活にもどれます。しかし、アルコールが原因のものでは、今後の再発を予防する意味でも、過度の飲酒は控える必要があります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「急性膵炎」の意味・わかりやすい解説

急性膵炎
きゅうせいすいえん
acute pancreatitis

膵臓に起る急性の炎症性疾患。自己消化といって,自分が分泌する消化酵素によって膵組織が消化されるために起る。アルコール過飲,胆石症,消化性潰瘍,膵癌などの患者にみられるほか,妊娠,流行性耳下腺炎,本態性高脂血症に合併することがある。症状は激しい上腹部の疼痛,吐き気,嘔吐,腹部膨満感で始り,不安と苦悶が著しい。重症では絶望感を伴い,冷汗,頻脈,ショックを起すことがある。治療としては,絶食,輸血,輸液を行い,適正な循環血液量を維持する。抗コリン剤,抗生物質,副腎皮質ホルモンなどが使われるが,特効的な薬剤はほとんどない。血液や尿のアミラーゼ (膵臓から出る酵素の一つ) が著しく上昇していれば診断は容易である。

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世界大百科事典(旧版)内の急性膵炎の言及

【膵炎】より

…膵臓炎ということもある。1963年,マルセイユにおいて膵炎シンポジウムが開催され,膵炎は,(1)急性膵炎,(2)再発性急性膵炎,(3)慢性再発性膵炎,(4)慢性膵炎に分類するとの統一見解が出された。急性膵炎(上記(1)(2))が膵臓の一過性の急性反応と定義されるのに対し,慢性膵炎((3)(4))は炎症を起こす原因や因子をとり除いても,膵臓の形態的,機能的な障害が不可逆的であったり,あるいは進行するものとみなされている。…

【腹痛】より

…腹痛は腹部の病気の最も多くにみられる症状であり,患者にとっていちばんの苦痛でもある。腹痛の起り方,痛みの内容,持続の時間などから,だいたいの病気を判断することができる。腹痛は,その起り方と性質から3種類に分けられている。第1は,胃,腸,胆囊,膵臓などの内臓から発する内臓痛性腹痛であり,おもに腹の中心線上に痛みの部位があり,さしこむようなきりきりした痛み(疝痛)で周期的に起こり,手で押さえたり腹を前に曲げたりすると楽になることがある。…

※「急性膵炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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