出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
継続的なアルコールの多飲などによって、膵臓に持続性の炎症が起こり、膵臓の細胞が破壊されて、実質の脱落と線維化(膵臓の細胞がこわれ、線維が増えて硬くなる状態)が引き起こされる病気です。このような変化の多くは元にもどりません。
2002年に医療機関を受診した患者さんの数は4万5200人で、人口10万人で35.5人の罹患率と推定されます。慢性膵炎は以前、男性に非常に多い病気でしたが、近年は女性の患者さんの増加が目立ち、男女比は現在2対1とされています。発症年齢では男性50代、女性60代にピークがみられます。
急性膵炎と同様にアルコール多飲による原因(アルコール性)が68%と最も多く、次に原因不明の特発性20.6%、
最近、自己免疫異常による膵炎(
典型的な症状として上腹部痛、腰背部痛があげられます。疼痛はがんこで持続性ですが、間欠的に生じるものもあり、また程度も軽度なものから高度のものまで人によりさまざまです。そのほかの症状としては吐き気・嘔吐、食欲不振、腹部
診察時には、上腹部を中心に圧痛(押すと痛む)がみられます。また、背中の中央あたりをこぶしでぽんぽんと叩かれると、背部から腹部にかけて広がるような痛みを感じることもあります(
疼痛は食後(油分の多い食事)や、飲酒後に比較的起こりやすい傾向がみられますが、とくに誘因がなく突然起こることもあります。また、まれに、まったく痛みのない慢性膵炎も存在します。
これらの症状は、膵臓の機能が比較的保たれている早期(代償期)にみられますが、膵組織が破壊され膵機能が著しく低下した後期(非代償期)には、かえって現れなくなります。
しかし、慢性膵炎の後期には、膵臓の
日本膵臓学会による慢性膵炎臨床診断基準が作成されています。基準によると慢性膵炎は診断の確かさの程度により、確診例、準確診例、
確診例とは、①画像診断(超音波、CT)によって
準確診例は、これらの検査所見の程度が確診例ほどではないものの、かなりの異常がみられるものであり、超音波やCT検査、磁気共鳴膵胆管造影(MRCP)、ERCPなどの画像診断を用いて、膵の形態や膵管の評価を行います。
疑診例はさらに程度が軽く、主として各症状と膵酵素異常などが認められ、慢性膵炎確診、準確診に該当しないものをいいます。
前述の臨床診断基準では、疼痛などの症状や血液、尿などの臨床検査所見は、慢性膵炎の診断のきっかけとはなりますが、診断基準には入れられていません。これは慢性膵炎の症状がさまざまで個人差も大きく、また、アミラーゼなど膵酵素の変動も症状と必ずしも一致せず、一定しないためです。
慢性膵炎の早期には膵臓の形(形態)や膵臓の機能に異常が少ないので、臨床診断基準の確診、準確診に当てはまる症例が少なくなっています。このため、早期の慢性膵炎の診断は困難で、臨床診断基準では、ある程度進行したものしか診断できないという問題があります。
経過中に急激に悪化して(急性
急性増悪まではいかないまでも、軽度から中程度の症状の場合は、原因あるいは誘因を極力避けることが必要です。すなわち、食事やストレスなどの生活習慣の改善が重要です。
具体的には節酒・禁酒を守る、脂肪の多い食事を避け(脂肪量を1日40g以下にする)、蛋白質も0.5~0.8g/㎏体重に制限します。また、過食を避ける、コーヒーを飲みすぎない、香辛料の使用を制限する、心身の安静を保つ、なども重要となります。
急性増悪を繰り返す場合は、1回の食事量を少なくし、食事回数を4~5回にして、分けて摂取するように指導します。
腹痛が持続する場合は、鎮痛薬や
膵機能の低下による消化吸収障害に対しては、消化酵素薬の大量投与が必要になります。また、胃酸分泌抑制薬も併用します。膵性糖尿病は、通常の糖尿病で使用される経口糖尿病薬ではコントロールが困難な場合が多く、一般にインスリン注射が必要になります。
慢性膵炎での特殊治療としては、膵石に対する
これらの治療法の発達で、慢性膵炎に対する外科的治療は以前に比べて少なくなりました。しかし、がんこな疼痛がどうしても改善しない場合や、重篤な感染を合併した時は、手術を行うことがあります。
腹痛や血清アミラーゼの軽度の上昇のみで、安易に慢性膵炎と診断され、漫然と投薬されている患者さんがよくみられます。まず消化器専門医の診察を受け、確実に慢性膵炎なのか、疑いが濃いのか、あるいは消化管などほかの疾患が考えられるのか、きちんとした診断を受けることが重要です。
早期の慢性膵炎の診断は困難ですが、症状の原因となるようなほかの疾患が検査によって否定された場合には、早期の慢性膵炎の可能性を考えて、生活習慣の改善を中心とした治療を受けることも必要です。
確実に慢性膵炎と診断された場合は、膵炎の進行阻止と合併症の予防が重要となってきます。ここでも治療の基本は生活習慣の改善であり、ほかは補助的な治療法であることをよく認識してください。
慢性膵炎は、直接死に至る病気ではありませんが、仕事や家庭での生活の質(QOL)を著しく低下させることもあるので、決してあなどることはできません。また、慢性膵炎の長期的な経過をみると、悪性腫瘍による死亡が最も多いとされているので、定期的に検査を受けることが必要です。
大山 奈海, 山口 武人
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
慢性の進行性の膵(膵臓)の炎症で、頑固な腹痛や背部痛などの症状を伴い、かつ治療がむずかしい特定疾患(難病)である。臨床的には、(1)膵炎発作を繰り返すが膵機能が保たれている代償期、(2)膵実質の脱落と線維化が進展し腹痛発作は軽度であるが膵機能の低下による症状を主徴とする非代償期、に分けられる。男女比は4対1で男性に多い。原因はアルコール多飲が約60%を占め、次に胆石による膵炎と特発性膵炎である。特発性膵炎のなかには自己免疫性疾患に合併し自己免疫的機序が発症に関与するものが含まれる。
[中山和道]
症状としては急性膵炎発作を数か月ごとに繰り返し膵機能不全に陥る型と、腹痛などの急性膵炎の病歴がなく、初診時から糖尿病、膵石や吸収不良症候群などを示す型がある。非代償期の症状として食欲不振、体重減少、下痢などがみられる。
診断としては、膵石の存在、膵外分泌機能の低下、膵管の変化が証明されれば診断できる。検査法としては、腹部単純X線検査、超音波検査、CT、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)を用いる。膵外分泌機能はBT-PABA試験で検査する。
[中山和道]
基本は原因の除去、食事療法、疼痛(とうつう)対策、内外分泌機能低下に対する補充である。アルコール性では断酒が大原則である。食事は糖質中心の低脂肪食を摂取し、疼痛に対しては鎮けい薬、中枢性鎮痛薬を投与するが、疼痛が緩和できないときは一時的に禁食し膵分泌刺激を低下させ中心静脈栄養を行う。外分泌低下には大量の消化酵素の経口投与を行う。内分泌機能低下の場合は糖尿病治療に準ずる。外科的治療としては主膵管の拡張が著明で、膵石がある場合には膵管空腸側々吻合(ふんごう)術、巨大膵嚢胞(のうほう)で周囲臓器の圧迫症状があるときには外科的あるいは内視鏡的ドレナージを行う。開口部に近い主膵管内の膵石が膵液の流出障害を起こし腹痛の原因となっている場合は、内視鏡的にバスケットカテーテルでの除去が行われている。
[中山和道]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…膵臓炎ということもある。1963年,マルセイユにおいて膵炎シンポジウムが開催され,膵炎は,(1)急性膵炎,(2)再発性急性膵炎,(3)慢性再発性膵炎,(4)慢性膵炎に分類するとの統一見解が出された。急性膵炎(上記(1)(2))が膵臓の一過性の急性反応と定義されるのに対し,慢性膵炎((3)(4))は炎症を起こす原因や因子をとり除いても,膵臓の形態的,機能的な障害が不可逆的であったり,あるいは進行するものとみなされている。…
※「慢性膵炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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