日本大百科全書(ニッポニカ) 「農間余業」の意味・わかりやすい解説
農間余業
のうかんよぎょう
江戸時代、農民が耕作の合間に行った各種の賃稼ぎや営業。農間稼(かせぎ)、諸稼、農間渡世(とせい)ともいう。初めはおもに農民の自足のために行われていたが、商品生産・貨幣経済の発達に伴って、しだいに生計補充として重視され、なかには農業が従で余業のほうが主となる者もいた。余業の業種は多種多様で、それに従事する農民も各層に及んでおり、上層農民は質屋、穀屋、酒造など、下層農民は煮(に)売り、荒物・草鞋(わらじ)売り、酒小売り、炭焼き、薪取り、機織(はたお)りなどや大工、木挽(こびき)、桶屋などの職人稼を行うことが多かった。これらの業種は普通「邑鑑(むらかがみ)」「村明細帳」や「宗門人別帳」に農民の名前とともに書き上げられている。幕府は、文政(ぶんせい)・天保(てんぽう)年間(1818~44)に至り、関東地方の村々で農間余業に従事する農民数、業種、営業開始年を調査して、その把握に努めた。余業は農村手工業や地方特産物に発展する場合もあったが、幕末になると、余業を営む農民には、「豪農」に成長する者や「半プロ」に転化する者が現れて、農民の階層分解に拍車をかけた。
[馬場 章]