改訂新版 世界大百科事典 「銅アンミン錯塩」の意味・わかりやすい解説
銅アンミン錯塩 (どうアンミンさくえん)
copper ammine complex salt
銅アンモニア錯塩ともいう。銅(Ⅱ)イオンにアンモニアが配位した銅錯体の総称。テトラアンミン銅錯体は最もよく知られる。硫酸銅のアンモニア水溶液にアルコールを加えると[Cu(NH3)4]SO4・H2Oの大きな青紫色結晶が生じる。この錯体では,4個のアンモニア分子が銅のまわりに平面正方形に配位し,それと垂直な方向に1個の水分子が配位している。無水硫酸銅固体に気体アンモニアを作用させると[Cu(NH3)5]SO4が得られる。テトラアンミン銅錯体を比重0.880の濃アンモニア水から再結晶すると青色の[Cu(NH3)5]X2(X=Cl,Br,ClO4)が得られる。この錯体では,銅に対してアンモニア5分子が配位していると考えられる。5番目のアンモニアはきわめて容易に失われる。アンモニア水溶液中では,銅に対してアンモニアが1~5分子配位した錯イオンが平衡状態で存在する。アンモニアの配位する数が大きくなるにしたがい,錯イオンの光吸収ピークの波長は短く,モル吸光係数εは大きくなり,[Cu(NH3)4]2⁺は600nmにε=55の吸収をもつ。ただし[Cu(NH3)5]2⁺では吸収ピークは645nmと逆に長波長にシフトする。液体アンモニア中に銅塩を溶かした溶液から[Cu(NH3)6]X2(X=Cl,Br)が得られるが,これは不安定でアンモニアを放出しやすく,アンモニアガス雰囲気中で取り扱わねばならない。そのほか,ジアンミン錯体としては[CuBr2(NH3)2],[Cu(N3)2(NH3)2],[Cu(NCS)2(NH3)2],[CuCO3(NH3)2]どが固体として得られている。これらは陰イオンが銅原子間を橋架けした多量体である。
執筆者:水町 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報