アンモニア(読み)あんもにあ(英語表記)ammonia

翻訳|ammonia

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンモニア」の意味・わかりやすい解説

アンモニア
あんもにあ
ammonia

窒素と水素の化合物で、常温では無色、強い刺激臭のある気体である。化学式NH3。水によく溶け(体積で約1000倍溶ける)アンモニア水となる。

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歴史

古代エジプトの太陽神アモンAmonの寺院の近くから産する塩を「アモンの塩」sal ammoniacusといっていたが、当時食塩と尿とからつくられていた白色粉末(実は塩化アンモニウムNH4Cl)をさすようになり、このことばが転化して、のち、これから得られるものとしてアンモニアの名が生じた。1774年にイギリスのJ・プリーストリーが初めて合成に成功した。

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存在

大気中には少量存在し、天然水中にも微量存在することが多い。また土壌中には細菌による含窒素有機化合物の分解生成物として含まれている。これが井戸水などに含まれている場合には、腐敗物質の存在を示すことになり、飲料水として不適当である。なお、地球以外の惑星、たとえば木星や土星などの大気中にもその存在が認められ、宇宙空間でも存在することが確認されている。

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製法

工業的には窒素と水素とを加圧下、高温で反応させてつくる。実験室では市販の濃アンモニア水を加熱して、発生する気体を乾燥すると得られる。あるいはアンモニウム塩を水酸化カルシウムなどのアルカリと熱してつくる。これらの場合、塩基性のアンモニアガスを乾燥するのに、乾燥剤として酸性のもの(濃硫酸や五酸化二リン)、あるいは塩化カルシウムなどを使ってはならない(アンミン錯塩をつくってしまう)。通常は酸化カルシウムか水酸化ナトリウムを用いる。

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性質

常温では無色、特異臭を有する気体であるが、圧縮すると簡単に液体にすることができる(たとえば20℃ならば8.46気圧)。分子構造は三角錐(すい)形で、水素原子は正三角形(1辺163ピコメートル)をつくり、その中心から38ピコメートル高いところに窒素原子がある。この水素原子のつくる平面に対し、窒素原子が上下する振動があるため、原子時計に利用される。気体のアンモニアは空気中では燃えないが、酸素中では黄色の炎をあげて燃え、窒素と水とを生ずる。このとき触媒を用いて酸化すると一酸化窒素が得られ、これをさらに酸化して二酸化窒素とし、水で処理すると硝酸が得られるので、この反応は硝酸製造に用いられる。ナトリウムやマグネシウムなどの金属とは反応してアミドや窒化物をつくり、ハロゲンとは反応して窒素を遊離する。水溶液はアンモニア水といい、アルカリ性で、酸とは塩をつくり、各種の金属塩とは反応してアンミン錯塩をつくる。気体を液化したものを液体アンモニアといい、水によく似た性質をもつ無色透明の液体で、溶媒として用いられる。

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分析

気体中に含まれるときは、水または酸に吸収させ、水に溶けているときは、そのままネスラー試薬を加えると黄褐色になることによって存在が知られる。また、水溶液に水酸化ナトリウムを加えて熱すると、アンモニアの特異臭があることによって簡単に知ることができる。この臭気はきわめて強く、ごく微量でも(1立方メートル当り17ミリグラム)知ることができる。

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用途

肥料としてもっとも多く用いられ、その量は日本ではアンモニア全生産量の85~90%に達する。残りが工業用である。肥料としてはこれまで主として硫安に変えられていたが、最近では尿素として用いるほうが多くなっている。工業用としては、硝酸の製造、ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)製造のアンモニアソーダ法での使用、有機合成原料などとして用いられる。

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アンモニア水

アンモニアの水溶液をアンモニア水という。アンモニアを水に溶かしてつくるが、発熱するので冷却しつつ行う必要がある。濃度が高いほど比重が小さい。たとえば15℃のとき、アンモニア9.91%で比重0.960、19.87%で0.926、30.37%で0.898である。アンモニア水中でのアンモニア分子の状態は、種々の実験事実から水酸化アンモニウムNH4OHの存在は考えられず、水分子の付加したNH3・H2OとNH4OHの中間状態にあるものとされている。したがってアンモニアの水溶液を水酸化アンモニムのようによぶのは誤りである。無色透明の液体で、アンモニア臭と刺激性の味をもち、アルカリ性を示す。これは、
  NH3+H2ONH4++OH-
の平衡によるものであるが、このときの平衡定数Kbは、

であって、弱アルカリ性である。熱した場合、もしくは、強アルカリが存在する場合は、溶解度が減少してアンモニアを失う。

 沈殿剤、緩衝剤など試薬としての用途が重要であるが、衣類の洗浄や局所刺激剤、興奮剤、制酸剤、中和剤などの医薬品としても用いられる。

 空気に触れさせておくと、揮発し、また空気中から二酸化炭素その他の酸性蒸気を吸収するから、ゴム、プラスチック、ガラスなどの栓で密栓して保存する。市販品は通常、空気中の二酸化炭素を吸収して一部が炭酸塩となっているので、厳密な目的のためには、水酸化バリウムを加えて煮沸し、出てくるアンモニアを、二酸化炭素を含まない蒸留水に溶かして使用することがある。濃アンモニア水は温度が上昇すると爆発的に噴出することがあるので、冷所に貯蔵する。とくに夏は栓をあけるとき噴き出すことがあるので、目に入れることのないように、十分注意しなければならない。

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液体アンモニア

アンモニアを液体にしたものを液体アンモニアという。略して液安ともいう。無色透明で、流動性が強く、水によく似た性質を示し、多くの各種化合物を溶解する。さらに電解質を溶かした溶液は、水溶液の場合と同じようなイオン反応、水素イオン濃度の変化による指示薬の変色などがみられる。このように各種化合物を液体アンモニアに溶かしたときには、水溶液中でおこす加水分解と同じように加溶媒分解をおこすが、これをアンモノリシスあるいは加安分解といっている。たとえば液体アンモニア中では、水の
  2H2OH3O++OH-
に対応した
  2NH3NH4++NH2-
があるため、重金属の塩類を液体アンモニア中に置くと、たとえば

のような反応を示す。これはたとえば水中での

の加水分解に対応している。

 また有機化合物が液体アンモニアだけでなく、アンモニア溶液と反応してアミノ基-NH2などが導入される場合もアンモノリシスということがある。たとえば、ハロゲン化物、酸無水物、エステルなどにみられる、

などがそうである。

 液体アンモニアは、非水溶媒として種々の溶液反応の研究に用いられるほか、直接に肥料としても使われる。なお蒸発熱が大きいため古く冷凍用寒剤としても用いられたが、現在ではあまり使われていない。

 取り扱う場合、粘膜を侵すので目、鼻、口などに直接触れないように注意する必要がある。

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『塩川二朗編『無機工業化学』第2版(1993・化学同人)』『金沢孝文・谷口雅男・鈴木喬・脇原将孝著『無機工業化学――現状と展望』(1994・講談社)』『渡辺明治・佐伯武頼編著『医科アンモニア学』(1995・メディカルレビュー社)』『日本化学会編『化学便覧 応用化学編』全2巻・改訂第6版(2003・丸善)』



アンモニア(データノート)
あんもにあでーたのーと

アンモニア
 分子式 NH3
 式量  17.03
 融点  -77.7℃
 沸点  -33.4℃
 密度  気体、0.771g/L(0℃、1気圧)
 (比重) 液体、0.817(測定温度-79℃)
 結晶系 立方
 溶解度 89.9g/100mL(水0℃)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アンモニア」の意味・わかりやすい解説

アンモニア
ammonia

化学式 NH3 。無色,刺激臭の気体。粘膜を激しくおかすので危険。融点-77.7℃,沸点-33.4℃。水 100ml中に0℃で 89.9g,20℃で 50.0g溶ける。圧縮すると容易に液化して液体アンモニアになる。大気中や天然水中に微量存在し,土壌中にも存在する。微量のアンモニアの分析には,検知管か,ネスラー試薬を使う。窒素肥料や硝酸の製造原料である。かつて原子時計に利用された。蒸発熱が大きい ( 55.5ΔvapH/kJ・mol-1 ) ので,冷凍機の冷媒として使われたが,今日ではフロンガスが広く用いられている。

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