日本大百科全書(ニッポニカ) 「雨の五郎」の意味・わかりやすい解説
雨の五郎
あめのごろう
歌舞伎(かぶき)舞踊。長唄(ながうた)。単に「五郎」とも、また「廓通(くるわがよ)いの五郎」ともいう。1841年(天保12)7月江戸・中村座で2世尾上(おのえ)多見蔵が初演した『八重九重花姿絵(やえここのえはなのすがたえ)』という九変化舞踊の一つで、三升屋二三治(みますやにそうじ)作詞、10世杵屋(きねや)六左衛門作曲。浅草観世音に、曽我(そが)兄弟を祀(まつ)る箱根荒人神の出開帳(でがいちょう)があったのを当て込んだ作で、雨のなかを愛人化粧坂(けはいざか)の少将(しょうしょう)のもとへ通う五郎の姿を舞踊化したもの。黒地に蝶(ちょう)の模様の衣装、紫縮緬(ちりめん)の頬(ほお)かむり、素足に塗り下駄(げた)、傘をさした姿で登場。クドキから荒事風の物語、手踊り、カラミを使った立回りと変化に富む。勇壮ななかに色気をみせた踊りである。
[松井俊諭]