N分N乗方式(読み)エヌブンエヌジョウホウシキ

デジタル大辞泉 「N分N乗方式」の意味・読み・例文・類語

エヌぶんエヌじょう‐ほうしき〔‐ハウシキ〕【N分N乗方式】

所得税課税方式の一。世帯所得合計を世帯人数で割った金額税率をかけ、算出された税額に世帯人数をかけて、世帯の課税額を算出する。収入が同じでも扶養家族が多いほど納税額を低く抑えられるため、少子化対策として導入が議論されている。

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知恵蔵 「N分N乗方式」の解説

N分N乗方式

所得税の課税対象を、稼得者個人ではなく1世帯全体を単位として課税する仕組みのこと。この税額算定は、世帯の所得を合算した総収入額を世帯の人数で割って1人当たりの所得額を計算し、その所得額に税率をかけるなどして1人当たりの課税額を出す。その税額に世帯人数をかけた額が、支払うべき税金となるというもの。
世帯課税の実際の運用では、割る数は世帯の実人数ではなく、人数構成によって決まる。例えば、夫婦をそれぞれ1、第1子を0.5ならば、3人の和である2.5が、この世帯の割る数及びかける数である。世帯課税では、課税対象を現在の個人単位ではなく、世帯を単位にする。これと累進課税制度を組み合わせると、家族の人数が多いほど納入額が低くなるのが特徴だ。このことから少子化対策になるとされている。
世帯課税の例としては、フランスが導入している「N分N乗方式」と呼ばれている課税が代表的。世帯を構成する人数が多いほど割る数Nは大きくなる。世帯当たりの収入が同額ならば、累進課税によって低い税率が適用され納税額は低く抑えられる。フランスでは、19世紀末から出生率低下が憂慮され、早くから児童手当制度が創設された。更に第2次世界大戦による人口減少に見舞われ、これに歯止めを掛けるべくN分N乗方式が1946年から適用された。一方、日本やイギリス、オランダなどでは、扶養家族についての税額控除で負担減免を図っている。控除方式とN分N乗方式の優劣は単純に比較できないものの、フランスの場合には中低所得層における累進課税の傾斜(変化率)が日本よりも急なので、同国のこの層については、N分N乗方式の効果が大きいと考えられる。
2014年3月7日、甘利明経済財政・再生担当大臣は、少子化対策として所得税の課税対象を世帯単位に見直す案を含めた税制改革の議論に着手する方針を明らかにした。麻生太郎副総理・財務・金融相も同じく「検討してみたい」とし「女性の社会進出や働き方、税収構造にどのような影響があるのか広範な検討を行う」と述べた。世帯課税が導入されると、専業主婦の世帯は低い税率が適用されるが、主婦が新たに就労すると高い累進税率が適用されることになる。これでは、成長戦略が目指す女性の就労推進と相反するのではないかという意見もある。この導入は平成27年度税制改正の焦点の一つになると考えられる。

(金谷俊秀  ライター / 2014年)


N分N乗方式

所得税の税額を計算する際に、世帯の総所得を合算した上で、それを夫婦および子供という世帯員数で割り、累進税率を適用して税額を出しておき、それに世帯員数をかけて納税額を算出する方法。所得税においては、その所得を個人単位で計算するか、世帯単位で計算するかという課税単位の問題が生じる。所得税では累進税率で課税されるため、世帯単位で課税されると、男性にも女性にも所得があれば、結婚によって男女の所得が合算され、高い税率が適用されてしまう。そこで2分2乗方式が考えだされた。これは、夫婦の所得を合算し、2分した上で累進税率を適用して出した数値を、2倍して納税額を算出する方法である。この方法だと結婚によって納税額が減少する。さらにN分N乗方式にすれば、子供が多ければ納税額が減少することになる(Nは家族数)。このため、少子化対策として所得税の課税方法にN分N乗方式を用いることが議論されている。現実に、N分N乗方式を導入しているフランスでは、出生率の増加が認められている。しかし、N分N乗方式を採用しても、中低所得者に対する減税効果は限定的であるため、少子化対策として疑問視する声も高い。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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