日本大百科全書(ニッポニカ) 「アガーニー」の意味・わかりやすい解説
アガーニー
あがーにー
Kītāb 'l-Agānī
10世紀中ごろに編まれたアラブ詩歌集の大作。編者はアブル・ファラジ・アル・イスファハーニーで、正しくは『キターブル・アガーニー』といい、『詩歌全集』と訳される。この書の原型は、教王、とくにハールーン・アッラシード(アッバース朝。在位786~809)のために選ばれた約100編の詩歌であるが、彼はこれに自身で選んだ古今の多数の詩歌を加えて完成させた。こうしてイスラム以前のアラブ文学の勃興(ぼっこう)期から編者の時代に至る詩歌の傑作を中心として、これに詩人、作曲家、歌手などの伝記、逸話、さらにはそれらが書かれ、歌われた当時の戦いや宴会などのようすをも記して、アラブ文学史上の一大資料を提供する。当時のある高名な知識人は、旅に出るとき、実に30頭のラクダに万巻の書を積んで行くのを常としたが、アガーニーが現れてからはこれだけを携えるようになったといわれる。文学上の傑作であるばかりでなく、アッバース朝以前のアラブ人の歴史、社会、教育、音楽などを知るうえで百科事典的著作でもある。1868年エジプトで印刷、公刊されて以来、アラブ諸国、ヨーロッパで諸版が流布している。
[内記良一]