内科学 第10版 の解説
アレルギー疾患のゲノムワイド関連解析(アレルギー性疾患の遺伝子)
症例対照関連解析とは疾患群と非疾患群とで遺伝子多型のアレル頻度の差を統計学的に検定する方法により,その遺伝子多型と形質(発症しやすさ,重症度,発症年齢など)との関連を明らかにする手法である.遺伝子多型の国際情報基盤整備(HapMap project)および近年のゲノム解析技術の進歩により大規模な信頼性の高い全ゲノム関連解析,genome-wide association study(GWAS)の手法が確立された.A Catalog of Published Genome-Wide Association Studies (http://www.genome.gov/GWAStudies/)では,疾患名を選択するだけでこれまで報告されたGWASの結果を入手することができる.
a.気管支喘息
気管支喘息の大規模なGWASはこれまで,ヨーロッパ,北米,日本,オーストラリアで行われ,14カ所の関連領域1q21.3(IL6R),1q23.1(PYHIN1),2q12(IL1RL1/IL18R1),4q31(USP38/GAB1),5q22(TSLP/WDR36),6p21(HLA領域),8q24.11 (C8orf85/SLC30A8),9p24(IL33),10p14(遺伝子が登録されていない領域,GATA3の1Mb下流),11p13.5(C11orf30/LRRC32),12q13(IKZF4),15q22.33(SMAD3),17q21.1(GSDMA/GSDMB),22q12.3(IL2RB)が同定されている.( )内は領域内に含まれている遺伝子を示す.17q21のGSDMA/GSDMB領域は小児期発症喘息特有の疾患関連領域と考えられている.これらの疾患関連領域には,環境要因(上皮障害物質や感染)に応答する分子群TSLP,IL33,IL1RL1,IL18R1,IL2RBなどが含まれおり,環境と遺伝要因とが共同して疾患発症に関与する機構が遺伝子多型・分子レベルで明らかになりつつあるといえる.
b.アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎のGWASはこれまで,ヨーロッパ,中国で行われ,7カ所の関連領域1q21.3(FLG),5q22.1(TMEM232/SLC25A46),5q31(KIF3A/IL-4/IL-13),11p13.5(C11orf30/LRRC32),11q13(OVOL1),19p13.2(ACTL9),20q13.33(TNFRSF6B/ZGPAT)が疾患関連領域として同定された.アトピー性皮膚炎のGWASから遺伝要因として「上皮バリア」と「免疫系」に関与する遺伝子群の重要性が示唆されている.これらはアトピー性皮膚炎治療戦略である「スキンケア」と「抗炎症治療」を強く支持するものである.
c.その他のアレルギー性疾患
アレルギー性鼻炎のGWASで11p13.5(C11orf30/LRRC32)が関連領域として同定されている.この領域はGWASにより気管支喘息,アトピー性皮膚炎との関連も報告されており,アレルギー体質に関連する共通の遺伝要因の存在が強く示唆されている.好酸球性食道炎は,食物抗原への感作が高率に認められ,食物誘発アナフィラキシーを高頻度に合併する疾患であり,食物アレルギーの類縁疾患と考えられている.2010年にGWASにより関連領域5q22(TSLP/WDR36)が同定された.好酸球性食道炎の病変部組織で非病変部に比べTSLPのmRNA発現が亢進していること,そしてTSLPのmRNA発現量がリスクアレルで高いことも報告された.[玉利真由美]
■文献
Irvine AD, et al: Filaggrin mutations associated with skin and allergic diseases. N Engl J Med, 365: 1315-1327, 2011.
Ober C, et al: The genetics of asthma and allergic disease: a 21st century perspective. Immunol Rev, 242: 10-30, 2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報