食物アレルギー(読み)しょくもつあれるぎー(英語表記)food allergy

日本大百科全書(ニッポニカ) 「食物アレルギー」の意味・わかりやすい解説

食物アレルギー
しょくもつあれるぎー
food allergy

本来は栄養として取り入れる相手である食物に対して、外敵から身を守るはずの免疫の仕組みが作動して、なんらかの症状がおこってしまうこと。日本小児アレルギー学会が作成している、食物アレルギーの標準的な治療のあり方や考え方を示した『食物アレルギー診療ガイドライン』(2016)では、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起(じゃっき)される現象」と定義されている。

[高増哲也 2020年3月18日]

症状

症状は、皮膚症状(じんま疹(しん)など)、のどの違和感、呼吸器症状(咳(せき)、喘鳴(ぜんめい))、消化器症状(腹痛、下痢嘔吐(おうと))、神経症状(眠気など)、血圧低下など多彩であるが、そのなかでももっともよくみられるのがじんま疹である。

[高増哲也 2020年3月18日]

原因となる食物

経口摂取するものはすべて原因(アレルゲン)となりうる可能性があるが、頻度の高い食物として、乳児~幼児では鶏卵乳製品、小麦、そば、魚類、ピーナッツなどが当てはまる。児童~成人においては、甲殻類、魚類、小麦、果実類、そば、ピーナッツなどが当てはまる。鶏卵や乳製品、小麦は年齢とともに寛解(症状が現れなくなること)しやすいが、その他のものは寛解しにくい。

 食品表示法では、消費者が食品を自主的かつ合理的に選択し、安全に摂取するための「食品表示基準」が定められており、特定のアレルゲンを含む食品については、食物アレルギーの発症数や重篤度から勘案してその原材料の表示が義務づけられている。表示が義務づけられた食材は「特定原材料」とよばれ、2019年(令和1)末時点で7品目が指定されている。すなわち「卵、乳、小麦、落花生(らっかせい)、えび、そば、かに」である。また「特定原材料に準ずるもの」として表示することが推奨されている食材(推奨品目)として、次の21品目が設定されている。すなわち「いくら、キウイフルーツ、くるみ、大豆、バナナ、やまいもカシューナッツ、もも、ごま、さば、さけ、いか、鶏肉、りんご、まつたけあわび、オレンジ、牛肉、ゼラチン、豚肉、アーモンド」である。

[高増哲也 2020年3月18日]

診断・検査

診断は、特定の食物に対して症状を引き起こしたという事実と、免疫によることを確認するための検査(特異的免疫グロブリンE〈IgE〉抗体検査)の組合せによって行う。ただし、検査で抗体があるというだけで、食物アレルギーと診断してはならない。

 そのほか、摂取することで症状が現れるかどうかを医療機関で確認する方法として、「食物経口負荷試験」がある。

[高増哲也 2020年3月18日]

対処法(治療)

食物アレルギーの対処法は、原因となる食物を特定したうえで、その食物を食事から除去することであり、そうすれば症状がおこらないようにすることができる。ただし、食物除去は栄養面や生活面での不自由につながりうることから、除去は必要最小限とすることとされている。過去には、家族に食物アレルギーがある場合、あらかじめ食物除去をしておくとよいと思われていたが、最近では、あらかじめ食物除去することは勧められないとされ、さらに、安全に食べることができる条件がわかっている場合には、その範囲内で食べるようにしておくことが、その後の食物アレルギーの軽減や予防につながる可能性があるとされている。また皮膚の状態をよくしておくこと(湿疹などがない状態にしておくこと)が、食物アレルギーの予防に有利に働くと考えられている。

[高増哲也 2020年3月18日]

食物アレルギーの特殊型

食物アレルギーは、通常は食物を食べることによって症状がおこるが、食物が皮膚や粘膜に接触することで症状がおこる場合もあり、それも食物アレルギーに含まれる。症状が口腔(こうくう)、のどに限局するものを「口腔アレルギー症候群」という。

 また、特定の食物を摂取した後に運動したときだけに全身型の症状が現れるものを、「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という。

[高増哲也 2020年3月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「食物アレルギー」の意味・わかりやすい解説

食物アレルギー
しょくもつアレルギー
food allergy

特定の食物摂取後に起こる病的な過剰反応(→アレルギー)。食中毒や毒性食物による反応,乳糖不耐症などの食物不耐症とは区別される。乳児や幼児に多くみられるが,加齢とともに耐性を獲得し症状を呈さなくなる場合もある。アトピー性皮膚炎じんま疹などの皮膚症状,下痢や嘔吐などの消化器症状,呼吸困難などの呼吸器症状のほか,全身性の激しいショック症状(→アナフィラキシー)を引き起こすなど生命にかかわる危険性もある。問診,血液検査皮膚反応を経て,食物除去試験,食物負荷試験を行ない原因食物を確定する。治療には原因食物の除去が最も効果的であるため,2001年,食品衛生法施行規則によって,重症度が高く症例数が多いとされるエビ,カニ,コムギ,そば,鶏卵,乳,ラッカセイを特定原材料と定め,加工食品食品添加物にこれらが含まれる場合はその旨を表示することが義務づけられた。国際食品規格委員会 Codex Alimentarius Commission(→国際食品規格)でも同様の合意がなされている。

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