病原体などから体を守る免疫反応が、特定の食べ物に対して過敏に働き、じんましんや息切れ、腹痛などの症状を引き起こす。急激な血圧低下や意識障害などで死に至ることもある。2012年には東京都調布市の小学校で乳製品にアレルギーのある女子児童が、給食で担任から渡されたチーズ入りチヂミを食べた後に死亡した。文部科学省はこの事故を受け、学校での対応指針を作成した。
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本来は栄養として取り入れる相手である食物に対して、外敵から身を守るはずの免疫の仕組みが作動して、なんらかの症状がおこってしまうこと。日本小児アレルギー学会が作成している、食物アレルギーの標準的な治療のあり方や考え方を示した『食物アレルギー診療ガイドライン』(2016)では、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起(じゃっき)される現象」と定義されている。
[高増哲也 2020年3月18日]
症状は、皮膚症状(じんま疹(しん)など)、のどの違和感、呼吸器症状(咳(せき)、喘鳴(ぜんめい))、消化器症状(腹痛、下痢、嘔吐(おうと))、神経症状(眠気など)、血圧低下など多彩であるが、そのなかでももっともよくみられるのがじんま疹である。
[高増哲也 2020年3月18日]
経口摂取するものはすべて原因(アレルゲン)となりうる可能性があるが、頻度の高い食物として、乳児~幼児では鶏卵、乳製品、小麦、そば、魚類、ピーナッツなどが当てはまる。児童~成人においては、甲殻類、魚類、小麦、果実類、そば、ピーナッツなどが当てはまる。鶏卵や乳製品、小麦は年齢とともに寛解(症状が現れなくなること)しやすいが、その他のものは寛解しにくい。
食品表示法では、消費者が食品を自主的かつ合理的に選択し、安全に摂取するための「食品表示基準」が定められており、特定のアレルゲンを含む食品については、食物アレルギーの発症数や重篤度から勘案してその原材料の表示が義務づけられている。表示が義務づけられた食材は「特定原材料」とよばれ、2019年(令和1)末時点で7品目が指定されている。すなわち「卵、乳、小麦、落花生(らっかせい)、えび、そば、かに」である。また「特定原材料に準ずるもの」として表示することが推奨されている食材(推奨品目)として、次の21品目が設定されている。すなわち「いくら、キウイフルーツ、くるみ、大豆、バナナ、やまいも、カシューナッツ、もも、ごま、さば、さけ、いか、鶏肉、りんご、まつたけ、あわび、オレンジ、牛肉、ゼラチン、豚肉、アーモンド」である。
[高増哲也 2020年3月18日]
診断は、特定の食物に対して症状を引き起こしたという事実と、免疫によることを確認するための検査(特異的免疫グロブリンE〈IgE〉抗体検査)の組合せによって行う。ただし、検査で抗体があるというだけで、食物アレルギーと診断してはならない。
そのほか、摂取することで症状が現れるかどうかを医療機関で確認する方法として、「食物経口負荷試験」がある。
[高増哲也 2020年3月18日]
食物アレルギーの対処法は、原因となる食物を特定したうえで、その食物を食事から除去することであり、そうすれば症状がおこらないようにすることができる。ただし、食物除去は栄養面や生活面での不自由につながりうることから、除去は必要最小限とすることとされている。過去には、家族に食物アレルギーがある場合、あらかじめ食物除去をしておくとよいと思われていたが、最近では、あらかじめ食物除去することは勧められないとされ、さらに、安全に食べることができる条件がわかっている場合には、その範囲内で食べるようにしておくことが、その後の食物アレルギーの軽減や予防につながる可能性があるとされている。また皮膚の状態をよくしておくこと(湿疹などがない状態にしておくこと)が、食物アレルギーの予防に有利に働くと考えられている。
[高増哲也 2020年3月18日]
食物アレルギーは、通常は食物を食べることによって症状がおこるが、食物が皮膚や粘膜に接触することで症状がおこる場合もあり、それも食物アレルギーに含まれる。症状が口腔(こうくう)、のどに限局するものを「口腔アレルギー症候群」という。
また、特定の食物を摂取した後に運動したときだけに全身型の症状が現れるものを、「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という。
[高増哲也 2020年3月18日]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
食べ物を経口摂取した時に、その食べ物に対するアレルギー反応により生じます。多くは食べ物を摂取して数分から1時間以内にじんま疹や腹痛などの症状が出る
成人にもみられますが、消化管粘膜の未熟な小児に多くの症状がみられます。
食物中のアレルゲンは消化管粘膜をとおって血液中に入り、その結果アレルゲンに反応する免疫グロブリンE(IgE)などの抗体やT細胞がつくられます。再びその食べ物を摂取することでアレルギー反応が生じ、症状が現れます。多くの食べ物が原因になりますが、そのうち頻度の高いものを表3に示します。
そのほか、アレルギーではありませんが、食物中に含まれる成分(仮性アレルゲン)によりアレルギーとよく似た症状が現れることがあります。その代表的なものがサバ、タケノコ、ナスに含まれるヒスタミン様物質、ジャガイモなどに含まれるサリチル酸化合物です。
即時型では、腹痛・下痢などの消化器症状やじんま疹・顔面
遅延型では食べ物によりアトピー性皮膚炎などの湿疹が悪化したり、下痢をすることがあります。
血液中のアレルゲン特異的免疫グロブリンE(IgE)抗体の測定や、アレルゲンを白血球に作用させて反応をみるヒスタミン遊離試験を行います。ただし、これらの結果が陽性でも、必ずしも症状の原因ではないので、値が低い場合にはその他の検査結果を合わせて総合的に判断します。
食物を用いたプリックテストは即時型の判定に有用です。
症状の原因になる食べ物の特定には、食物除去試験や負荷試験を行います。負荷試験は症状を誘発する危険があるため、食物の負荷を少量より開始し、徐々に増やして反応をみます。
原因となる食べ物を食べないようにするのが最も良い方法です。しかし、小麦や卵など多くの食品に含まれているものでは完全に除去するのは難しい場合があり、非吸収性の抗アレルギー薬(クロモグリク酸など)を食前に服用して症状が出るのを防ぎます。
症状が出た時は、対症療法として抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を内服し、湿疹の悪化にはステロイド外用薬を塗ります。
気管支喘息やアナフィラキシーショックの治療については、該当する項目を参照してください。
食物アレルギーが疑われたら、まず原因と思われる食べ物を食事から除去します。低アレルギーミルクや低アレルギー米など、市販されている低アレルギー食品を代替食品として利用するのも有効です。小児の場合、1~2年除去していれば自然に食べられるようになることが多いので、負荷試験を行って、食べても大丈夫かどうか確認後に再開します。
相原 道子
卵や牛乳など特定の食物を摂取することにより、アレルギー(免疫)反応が生じ、皮膚や消化器、呼吸器などに病的反応を起こすものです。最も重大な反応は、血圧が下がって意識がなくなるアナフィラキシーショックです。乳児で5~10%、幼児で3~4%、成人で1~2%と、子どもに多い病気ですが成人にもみられます。原因は乳幼児では卵、牛乳、小麦が多く、成人では甲殻類(エビ、カニ)と魚が多いと報告されています。
食物蛋白は、胃のなかで蛋白分解酵素により分解されるため抗原性を失いますが、乳幼児では消化機能が完全でないため、抗原性を維持したペプチドのまま腸から体のなかに吸収されて免疫組織にたどり着くことがあります。その場合でも、通常は、栄養として有益な食物由来のペプチドに対してはアレルギー反応を起こさないような仕組み(免疫寛容)がはたらくのですが、食物アレルギーのヒトではこの機序がはたらかず病気が起こります。
アレルギー反応には、数分から数時間以内に起きる即時型アレルギー反応と、十数時間から数日たって起きる遅延型アレルギー反応とがあります。即時型アレルギー反応の原因は、IgE抗体というアレルギー抗体が作られてしまうことです。時間が経って起きてくる(遅延型)アレルギー反応は、原因となる食物抗原ペプチドを記憶しているリンパ球という免疫細胞が、抗原ペプチドによって刺激を受けて活性化されて組織を傷害することにより起こると考えられています。
皮膚・粘膜、消化器、呼吸器などに、表3に示したような多様な症状を起こします。その程度はいろいろで、皮膚の軽いぶつぶつ(発疹)やかゆみの出現程度ですむものから、生命に影響のある重大なアナフィラキシーショックまで千差万別です。
また同じ食品でも、食べた量や体調により症状に差があります。原因となる食品を食べて数分から数時間以内に起きてくる即時型アレルギー反応に由来する症状と、十数時間~数日以上の時間がたって起きてくる遅延型アレルギー反応に由来する症状があります。
即時型の症状を起こす食品は、経過により因果関係が容易に推測できますし、血液のなかの食物に特異的なIgE抗体の有無を測定することにより、診断が可能です。
時間がたって起きてくる(遅延型)症状はなかなか診断が困難です。疑わしい食品と症状との関係を、日誌をつけることにより調べます。また、その食物を除去することにより症状が良くなることを確かめます。いったん除去で良くなった後、その食物を負荷して症状を誘発できれば確実です。
原因となる食品が判明したら、その食品を除去することが治療の基本です。即時型アレルギーによる症状には抗ヒスタミン薬やステロイド薬を内服や注射で使用します。アナフィラキシーショックに対してはアドレナリンを筋肉内に注射します。患者さん自身が常に携行し、いつでも使用できるように作られた注射薬(エピペン)があります。
浜﨑 雄平
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(的場輝佳 関西福祉科学大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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