イエメン情勢

共同通信ニュース用語解説 「イエメン情勢」の解説

イエメン情勢

イエメンアラビア半島南西部のイスラム教国で、人口約2497万人(2014年推定)。19世紀から南北分断が続き1990年に統合イエメン共和国が成立した。2011年以降の民主化運動「アラブの春」が波及しサレハ前大統領の長期政権が倒れた。部族社会の伝統が色濃く政府の権力が及ばない地域もある。サレハ政権崩壊後の混乱の中、国際テロ組織アルカイダ系勢力「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」やイスラム教シーア派ザイド派の反政府民兵の活動が活発化し、治安悪化。国家分裂の危機が指摘されていた。(共同)

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知恵蔵 「イエメン情勢」の解説

イエメン情勢

イエメンでは2013年頃から武装組織「フーシ」が勢力を拡大し、15年2月に首都サヌアで暫定政権の樹立を宣言した。「アラブの春」後の11年から暫定政権を率いてきたハディ大統領は、国外に追われた。「フーシ」は、北部のサアダ州に拠点を置くザイド派(イスラム教シーア派の一派)の組織で、サレハ前大統領やシーア派の盟主イランの支援が伝えられる(イラン側は否定)。イエメンは国民の約4割がシーア派である。サレハ前大統領もシーア派の出身で、これを機に復権を狙っているとみられる。こうしたシーア派の台頭に穏やかでないのが、イスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアだ。湾岸諸国やエジプトモロッコなど9カ国と有志連合軍を結成し、3月以降、断続的にイエメンの「フーシ」占拠地域への空爆を続けている。
以上のことから、現在(15年5月時点)のイエメン情勢は、「フーシ、サレハ前大統領を支えるシーア派イラン」と「ハディ大統領を支えるスンニ派サウジアラビア」の代理戦争の様相を呈しているといわれる。そのすき間をぬって、国際テロ組織アルカイダ系の「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)が南部で勢力を拡大しており、内戦状態を脱せないシリアや過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威にさらされるイラクの二の舞いに成りかねないと懸念されている。イエメン南東部のハドラマウトは、オサマ・ビンラディンの父の出身地でもある。
一方、混乱の起因を「シーア派対スンニ派」という宗派間対立に帰するのは浅薄な見方という声もある。1967年の独立以前から続く有力部族間の対立や、90年の南北統一以後も収まらない旧北・旧南の出身者間の確執、利権争いなどが根底にあるという分析だ。イエメンは中東の最貧国で、石油・天然ガスの産出量も極めて少ない。

(大迫秀樹 フリー編集者/2015年)

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