部族社会(読み)ぶぞくしゃかい(英語表記)tribal society

日本大百科全書(ニッポニカ) 「部族社会」の意味・わかりやすい解説

部族社会
ぶぞくしゃかい
tribal society

共通の言語や祭神をもち、一共通領域を占有し、同質的な文化や伝統を有する人々(部族tribe)の集団。外敵に対して団結して行動し、集中的な政治的統一体をなすこともあるが、多くは文化統一体で、一定の地域と部族名と共通の方言をもつ。一部族の人口をみると、オーストラリア先住民では平均500~600、カリフォルニア先住民では200~300である。技術が未発達なほど人口希薄で部族の占める土地は広いが、交通手段が発達しないので、生活地域はそれほど広くはならない。この小社会は孤立的、封鎖的で、一般によく統一を保ち、そのなかの人間関係は面接的、人格的である。近代社会の社会圏が拡大し、人口も増加の一途をたどり、人間関係が非人格化されてゆく傾向と好対照をなしている。

 部族社会は新石器時代の技術の出現とともに発現した。つまり部族社会の経済は、食料採集と動物の馴化(じゅんか)(順化)を基盤としている。この新石器時代の技術たる農耕牧畜によって勢力を拡大した部族社会の人々は、種々な環境におのおの適応しながら、地上を大幅に支配し始め、それにつれて、採集狩猟民は突如として辺境に追い込まれた。このようにして今日では採集狩猟生活は辺境の生活法に変わっている。ともかく、この世界的規模での人口膨張運動の過程で、極度に多様な生態的条件に、すこぶる多様な適応を経た生活様式が出現した。部族社会ということばで示されてきた社会には、〔1〕アマゾンオセアニア、熱帯アフリカの焼畑農耕民社会、〔2〕アジア、アフリカの乾燥地帯の移動遊牧民社会、〔3〕北アメリカ北西岸の狩猟漁労民社会、〔4〕アメリカの騎馬狩猟民社会、〔5〕プエブロ人、ポリネシア人などのように集約的な灌漑(かんがい)農耕を営んでいた社会などがある。

[野口武徳]

『D・フレイザー著、渡辺洋子訳『未開社会の集落』(1984・井上書院)』

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旺文社世界史事典 三訂版 「部族社会」の解説

部族社会
ぶぞくしゃかい
tribe community

原始社会で,諸氏族の結合により形成された部族が単位となっている社会
部族は簡単な政治組織をもち,一定の領域を占有,家父長会議または自由民の男子全員の集会で統制され,祭祀・戦争・講和などの部族全体の利害・運命に関することを決めた。選挙によって首長が選ばれることもあったが,その権能は限られていた。しかし内にあっては,生産力や商業の発展によって階級対立を生み,また自衛のために軍事力の強化をうながし,外に対しては他部族との対立抗争による優劣によって,しだいに古代国家が形成された。

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世界大百科事典(旧版)内の部族社会の言及

【首長制】より

…部族社会(政治的中心をもたず,富や地位の分化もみられない平等社会)と国家社会(権力が中央に集まり,富や地位の分化が確立している社会)との中間に位置する統治形態として,アメリカの文化人類学者E.R.サービスによって導入された概念。部族社会の中で平等な地位にあった血縁集団の間に地位の上下関係が生じ,その一つまたは少数の集団が首長chiefの地位を独占・継承するに至って生まれる。…

【部族】より

…それらは人種,言語,文化(生活様式と価値体系など)を共有する人間集団とされているが,部族はこの3者に加えて特定の地域に居住する人々という限定をおくのが普通である。未開社会,つまり単純な技術と経済をもち,生業の分化も少ない,比較的小地域に編成されている社会を,文化人類学では部族社会として一括してきた。しかしその中には極北のエスキモーやカラハリ砂漠のサンのような狩猟民から,かなり高度な政治組織をもつ東アフリカのアンコーレ王国,あるいは北米のインディアンのイロコイ連合のような社会まで,多様なものを包括していた。…

【未開法】より

…このような反省から,1960年代以降は〈未開法〉の代りに〈部族法tribal law〉とか〈現地住民の法native law〉,あるいは〈民俗法folk law〉という呼び方が一般化してきた。 部族社会tribal societyの法は,形式と運用の面で特色があり,西欧諸国の制定法とたしかに差異がある。まずこの種の社会の法は成文法ではない。…

※「部族社会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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