日本大百科全書(ニッポニカ) 「こぶ取り爺」の意味・わかりやすい解説
こぶ取り爺
こぶとりじじい
昔話。思いがけない幸福を得ることを主題にした隣の爺(じじ)型の葛藤譚(かっとうたん)の一つ。顔にこぶのある爺が山へ仕事に行く。大木の洞に雨やどりをしていると、鬼が酒宴を始める。爺もいっしょに踊って喜ばれる。帰りがけに宝物をもらい、明日またきたら返そうと、顔のこぶをとられる。翌日、やはりこぶのある隣の爺がまねて行くと、踊りが下手だ、もうこなくてよいと、こぶを返され、こぶが二つになる。類話は古く鎌倉初期の『宇治拾遺物語』や『醒睡笑(せいすいしょう)』(1628)にもある。明治以後、読み物や教科書で親しまれているが、古くから昔話として伝えられてきたものであろう。昔話には鬼のかわりに天狗(てんぐ)になっている話も多い。朝鮮にもほとんど同一の類話があり、中国では明(みん)代の『笑府』などにみえる。モンゴルの仏教説話集『シッディ・キュル』やチベットにもあり、インドには反っ歯を抜いてもらい美男子になる話もある。ペルシア、トルコからヨーロッパ一帯にも分布するが、東アジアでは顔や首のこぶの例が普通であるのに対して、ヨーロッパでは背中のこぶが一般的である。精霊から幸福を贈られる点など、「金の斧(おの)・銀の斧」と基本構造が一致している。
[小島瓔]