仏教説話集(読み)ぶっきょうせつわしゅう

改訂新版 世界大百科事典 「仏教説話集」の意味・わかりやすい解説

仏教説話集 (ぶっきょうせつわしゅう)

釈迦やその直系の弟子たちが説いた教えは,はじめ口頭で伝承され,のち文字で書かれて経典となった。その内容も物語風な構成のものが多いが,そのままでは仏教説話集とは呼ばない。あくまで経である。現在われわれが仏教説話集と呼んでいるものは2種ある。第1は,中国その他の仏教国で編まれた,高僧たちの行状をめぐる話や,信徒間で語り広められた因果応報譚などを集録したもの。第2は,それぞれの国のことばで,経・律・論のなかから釈迦伝やジャータカ(釈迦本生譚)などを書き集めたものである。中国でいえば,六朝から隋唐へかけて多く編まれている。梁の慧皎の《高僧伝》14巻,唐の唐臨の《冥報記》2巻か3巻,は前者の,梁の宝唱らの《経律異相》50巻,唐の道世の《法苑珠林》100巻などは後者の代表的なもので,日本にも将来されて,その影響が大きかった。日本の仏教説話集は,9世紀の早いころ僧景戒が編んだ,漢文の《日本国善悪現報霊異記》(《日本霊異記》)にはじまる。中国の《冥報記》《般若験記》に触発されて,私度僧出身の景戒が信仰仲間で語り合われていた信仰の証言を書き集めた,因果応報譚集成。いわば下から出てきた説話集である。13世紀に鴨長明が遁世聖たちの話を集めた,漢字まじりの片仮名文の《発心集》などがその流れを汲んでいる。9世紀中ごろ僧義昭が編んだ漢文の《日本感霊録》は諸寺の霊験譚で,布教のための上からの啓蒙性が濃い。同世紀後半,漢学者慶滋保胤(よししげのやすたね)が書いた《日本往生極楽記》は,篤信者の臨終を描き,類型的に賛美した。11世紀の僧鎮源の《大日本法華験記》は,法華経の功徳譚集。その後,これらのあとを追う縁起,往生記,霊験記がつづいている。やや違うのは,11世紀のものらしい印度・中国の仏教説話を漢文で書き集めた《注好選》で,これは,やがて天竺・震旦・本朝の仏教説話を核に,ひろく世俗説話まで網羅しようとする《今昔物語集》31巻が漢字まじり片仮名文で書かれる先導車ともいえる。これら仏教説話集の諸類型のほかに,12世紀の《百座法談聞書抄》,13世紀の《言泉集》など,説経草案というべき唱導集の一群も残っている。仏教入門書である《三宝絵詞》や,《信貴山縁起》《一遍聖絵》などの絵巻も,広義の仏教説話集に入ろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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