改訂新版 世界大百科事典 「ダイムノベル」の意味・わかりやすい解説
ダイム・ノベル
dime novel
アメリカではやった安価な大衆小説。10セント小説の意で,1860年,ビードルErastus BeadleがスティーブンズAnn S.Stephens著《マラエスカ--白人猟師のインディアン妻》を1ダイム(10セント)で出版して成功したのが,その始まりとされる。それ以後,彼は〈ダイム・ノベル〉シリーズ以下31のシリーズ,3158点の作品を出し,大もうけした。同業者たちもその後を追い,1880年から90年までに101のシリーズが出たという。ジャドソンE.Z.C.Judson,イングリアムPrentiss Ingraham,ホイーラーEdward L.Wheeler,探偵〈ニック・カーター〉ものの作者コーリエルJohn R.Coryellなどが書きまくった。
ダイム・ノベルは安っぽい紙表紙の本で,辺境の猟師,スカウト(斥候),金鉱採掘者,カウボーイ,アウトロー,探偵などの冒険をセンセーショナルに語り,教育のある階層からは排斥されたが,善人が必ず勝ち悪人は必ず滅びる筋立てで,アメリカの理想を素朴に打ち出し,南北戦争前後から登場した庶民的読書階層に訴えた。20世紀に入ると,〈パルプ雑誌pulp magazine〉と呼ばれる扇情的読物雑誌に取って代わられたが,アメリカ大衆文学の基本の型を示すものといってよい。
執筆者:亀井 俊介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報