日本大百科全書(ニッポニカ) 「テトス書」の意味・わかりやすい解説
テトス書
てとすしょ
The Epistles to Titus
『新約聖書』の「牧会書簡」に属する手紙。「テトスへの手紙」とよばれる。テトスは、使徒パウロの伝道を助け、とくに問題を抱えていたコリント教会とパウロの間にたって困難な使命を果たした信任厚い協力者である。ギリシア人でありながら、未割礼(かつれい)のままキリスト者となった例にもあげられている(「ガラテヤ書」2章三節)。一般には、パウロの手紙として流布されているが、学問的には疑問がある。執筆年代は1世紀末か2世紀初めと推定される。内容は、教会制度をめぐる組織の確立や異端者に対する警告、教会が教えなければならない健全な教えと信仰生活などが説かれている。パウロ自身の手紙ではないにしても、パウロの権威がまだ部分的にしか承認されていなかった東方地域において、パウロの根本思想を踏まえて書かれたものと推定される。
[山形孝夫]