改訂新版 世界大百科事典 「ハントゥア」の意味・わかりやすい解説
ハントゥア
Hang Tuah
マレー人に最も人気のある歴史上の国民的英雄。マラッカ王国の黄金時代を築いたスルタン・マンスール・シャー(在位1459-77)に仕えた。生没年不詳。彼については,マラッカ王国の歴史を記した《スジャラ・ムラユ》や伝記《ヒカヤット・ハントゥア》(17世紀ころ)に詳しい。戦場での数々の武勲,スルタンの使者としてコンスタンティノープル(現,イスタンブール)まで達した華々しい冒険などとともに,彼を英雄にしたのは主君スルタンへの忠誠心であった。彼は主君への絶対の忠誠という封建的価値の具現者である。反逆者となった親友ハン・ジュバとの決闘は有名な悲劇となっており,彼に対するスルタンの不正な扱いにもかかわらず,スルタンの名誉を守るために親友を殺す。近年,ハン・ジュバを封建的権威に対する抵抗者,ハントゥアを封建的権威の擁護者とする新しい評価が行われたが,依然として国民的英雄である。
執筆者:中原 道子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報