改訂新版 世界大百科事典 「スジャラムラユ」の意味・わかりやすい解説
スジャラ・ムラユ
Sejarah Melayu
東南アジア,マラッカ王国の歴史を記した書。《スジャラ・ムラユ》の書名は〈マレーの王の系譜〉の意味で,古くは《スルタンの系譜》とよばれ,1612年にジョホール王国のブンダハラによって現在のような形に完成された。マレーの古典の中で最も重要な作品。内容は,アレクサンドロス大王にまでさかのぼるマラッカ王国の王統の起源から説き起こし,マラッカの建国,その黄金時代を経て1511年のポルトガルの攻撃による王国の崩壊までの歴史で,スルタンの宮廷を中心に数多くのエピソードをちりばめ,伝説と歴史が渾然一体となり華麗に展開する。マレーの伝統的歴史記述の特色は,支配者が神話や伝説によって神秘化されたその系譜を書くことで,その目的はダウラという王権の神聖性を高めることにあり,その当然の帰結として,民衆には絶対の服従と忠誠が要求される。本書は手写本の形でしか存在しなかったが,1831年に初めてシンガポールで《アブドゥッラー物語》の著者アブドゥッラーによって印刷出版された。
執筆者:中原 道子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報