改訂新版 世界大百科事典 「ベイリス事件」の意味・わかりやすい解説
ベイリス事件 (ベイリスじけん)
帝政ロシア末期におけるユダヤ人に対する〈血の中傷〉事件。ユダヤ人ベイリス Menahem Mendel' Beilis(1874-1934)はその被告。1911年3月20日にキエフ市郊外で12歳の少年が死体で発見された。右翼国粋主義者による反ユダヤ宣伝が組織される中で,法務当局は事件捜査を〈祭儀殺人〉の線で進めるよう指示し,同年7月21日にユダヤ人ベイリスが逮捕された。これに対し,根拠のないでっちあげだとして,ロシア内外の各界から抗議の声が高まった。13年9~10月の裁判では当時一流の著名弁護士たちが被告の弁護に当たった。陪審の結果,2年余り投獄されていたベイリスの無実が判明し,彼は晴れて釈放された。キリスト教徒の殺人をユダヤ教徒の祭儀に関係づける〈血の中傷〉は,中世から近代の東西ヨーロッパで広く見られたが,ベイリス事件はその最後の時期に属する。なお,この事件に題材をとった文学作品に,マラマッドの《修理屋The Fixer》(1966)がある。
執筆者:原 暉之
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