改訂新版 世界大百科事典 「ホネスティオレス」の意味・わかりやすい解説
ホネスティオレス
honestiores[ラテン]
ローマ帝国元首政期の上層民(名誉ある人びと)。〈フミリオレスhumiliores〉と呼ばれる下層民(卑しい人びと)と社会的身分において区別される。元老院議員身分,騎士身分,退役兵,都市参事会員身分の者が上層民に属し,初期には法制上の差別はみられなかった。しかし,アントニヌス・ピウス帝の頃から,刑事訴訟手続や刑量などにおいて特権的な取扱いを受けるようになった。このような身分差別が顕著になった背景に,ローマ市民権付与の拡大によって,市民と非市民との区別がほとんど意味をもたなくなってきた事実があることは注目される。つまり,ホネスティオレスがローマ市民の特権を広範に保持していたのに比べて,フミリオレスに属する民衆一般は,外人や奴隷の身分に相当する処遇に甘んじなければならなかった。都市国家から世界帝国へと発展したローマ人の社会が絶えず差別の構造を不可避としていたことは興味深い現象である。
執筆者:本村 凌二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報