この概念は国により時代によってかならずしも一定しない。
(1)ごく広義には、特定の社会またはその内部の集団のなかで個人が占める地位を意味し、それに付随する役割とともに、他に対しなんらかの上下・同等の別とつながる権利・義務関係を伴う場合をいう。この場合の身分を構成する要因は、血統や家柄、財産や権力、職業や収入、教養や名誉などであって、それらに対して上下・優劣の差別評価がなされる。
(2)身分法や親族法にみられる身分とは、親子、夫婦、きょうだい、親族の間の人間関係が多少とも支配と被支配、権威と恭順の関係を特色とする場合にいわれる。
(3)歴史的な概念としての身分とは、とくに中世の封建社会にみられるような、世襲によって固定化された生得的な社会的地位をいう。その場合、この地位は生得的であるためにきわめて閉鎖的・固定的であり、しかもそれが通婚の制限とか職業の世襲あるいは一定の生活様式の遵守などのように法的な規制を受けることによって、相互に排他的・閉鎖的な性格をいっそう強めることになる。こうして、ある社会の内部で社会的名誉とか威信の享有度に応じてくぎられた各身分は、身分的特権の有無とか系統や家格の高下・貴賤(きせん)およびそれらに対応する固有の生活様式や生活態度、職業や教養によって特徴づけられ、それらを純粋培養することになる。この種の身分は閉鎖的階級ともよばれ、また、歴史的な意味を離れて、より一般的には社会階級(差別評価による威信に基づく階級または身分的性格の強い階級)を意味することもある。
[濱嶋 朗]
歴史的概念としての身分の例としては、中世封建社会における士・農・工・商の身分別がある。これらの身分別は、通常、一定の社会のなかで人々が営む職能の別と不可分に結び付いており、それぞれの職能に特有の生活態度、慣習、意識、行為様式などが付着する。そして、これらの諸特徴に対し差別的な社会的評価が与えられ、威信や名誉の大小、特権の有無などを伴う上下、支配・被支配の関係を伴うことになる。その場合、富力、財力といった経済的勢力の所有はかならずしも高い社会的尊敬を受け、名誉を与えられるとは限らない。むしろ、ある特別の生活様式や生活態度に対して与えられる社会的尊敬(したがって名誉や威信)が重要な意味をもつ。にわか成金が貴族の称号や官職を買い求めたり、貴族の生活様式を模倣したりするのはそのためである(町人貴族)。
すでにみたように、身分別の生活様式、生活態度、特権などは、支配的上層身分が自己の身分支配を正当化し、身分秩序を維持する必要から、法制的に固定化され、世襲化されるが、この世襲的固定化がさらに進んで、身分別が法制上ばかりか宗教的、儀礼的にも保証されるようになると、カーストが成立する。古代インドのバラモン、クシャトリア、バイシャ、シュードラ、不可触民の威信序列と支配秩序(カースト制度)は、異なるカースト間の自由な接触を厳しく制限し(食事の同席の禁止、摂食禁制、通婚の禁止など)、また業による輪廻(りんね)・因果応報思想によって自らを正当化してきたが、現代では近代化の趨勢(すうせい)下で解体過程をたどっている。なお、アメリカ南部における白人と黒人の間にも人種に基づく社会的差別があり、政治的・経済的な権利と地位の不平等、人種的な差別と偏見を伴っているが、これもカーストの変形といえないことはない。
[濱嶋 朗]
『R・リントン著、清水幾太郎・犬養康彦訳『文化人類学入門』(1952・東京創元社)』▽『M・ウェーバー著、濱嶋朗訳『権力と支配』(1954・みすず書房)』
地位や階級などと同様,社会における人々の序列的位置を指示する概念。階級が経済関係を基底とする人々の序列化であるのに対し,身分の序列化は法または慣習によって定まる。また,地位の配分には世襲による属性的地位と,業績による獲得的地位があるが,身分は属性的地位であり,地位移動すなわち身分の上昇・下降は非常に困難であり,固定的な序列として人々に観念される。人々の序列化における身分から階級へという移行は,中世封建社会から近代産業社会への変化の一つの指標でもある。職業が世襲によって定まり,身分の移動がなく,同一身分内の閉鎖的な関係(たとえば内婚制がその代表的な事例)を世代を超えて持続するなかでは,それぞれの身分に固有な生活様式が形成され,人々は自己の身分を運命的なものとして受けとめる。
R.K.マートンによれば,現代社会においては,個人はさまざまな社会システムに参加し,そこで多様な地位を占める。そしてこれらの地位は,相互にある程度隔離(コンパートメント化)されたものとして,人々に観念される。つまり,学校における教師という地位と,地域コミュニティにおける住民としての地位と,草野球における一選手としての地位とが,相互にその行為内容を規定する力は弱い。個人の生活は彼が参加する社会システムごとにコンパートメント化されていると考えることができる。
一方,中世封建社会に代表される身分制社会においては,個人の身分は,彼の全生活領域における行為を規定する。別の側面からいえば,諸個人が参加する各社会システムにおいて,その成員構成が身分的序列と交差する可能性がほとんどないということである。あらゆる社会的状況において,人々の序列化は固定されており,その相対的な優劣は一定である。もっとも閉鎖的・固定的なカーストから中世的な身分制へ,そして近代の階級へという歴史的な変化として,この概念が用いられると同時に,現代の階層的秩序の比較社会学的分析にも有効な概念として用いられる。それは,身分という概念を核として,地位の配分における属性対業績という尺度,一個人が占める複数の地位(地位集合)の相互の関係における包括性・全体性対個別性あるいはコンパートメント化の度合という尺度,階層的秩序における所与性対変革可能性という観念的尺度などを分析することによって,社会のあり様を検討できるからである。
執筆者:渡辺 秀樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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社会体制のなかで,伝統的に固定された,人の占める位置。主として生産手段の所有・非所有によって分ける階級や,職業,性別,年齢などによって分ける階層とに区別される。近代社会が発展するとともに,身分制度は打破されていく。身分制は近代以前の社会のものであり,特に封建社会において著しく,聖職者,貴族,騎士,平民(商人,手工業者,農民など)に分かれており,法律上の待遇が違っていた。近代社会における「法の前の平等」は身分制を打破した。イスラーム社会では,自由人と奴隷の身分に分けるのが基本である。ただ,奴隷の解放が善行として奨励されたから,両者の区別は明確ではあるが,固定的なものではなかった。また,権力や富を有する特権層(ハーッサ)と一般の民衆(アーンマ)とに分ける伝統もあり,特権層内の身分や職種ごとにターバンの色や形が決められていた。中国では貴族制が崩壊した10世紀以降においては,科挙に合格した「士」(士大夫(したいふ))とそれ以外の「庶」(平民)とに良民を分けるのが基本的な概念となった。その意味では中国の身分は個人の資質に左右される開放的・流動的なものだった。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…江戸時代の社会を構成した主要な身分である武士,百姓,職人,商人を指す言葉。四民ともいう。…
…日本近世における被支配諸身分の中で,百姓や諸職人とともに最も主要な身分の一つ。その基本的性格としては,(1)さまざまな商業を営む商人資本であること,(2)都市における家持(いえもち)の地縁的共同体である町(ちよう)の住民であり,正規の構成員であること,(3)国家や領主権力に対して,町人身分としての固有の役負担を負うこと,などがあげられる。…
…日本の労使関係においては,この2様の意味をもつ年功がいろいろな人事処遇制度を貫く原理となってきた。これは,表に示した身分(現在は資格と呼ばれることが多い)・職分(現在は職制と呼ばれることが多い)制度によくあらわされている。この表の意味は,勤続年数5年未満の者は,原則として身分は並工で役付になることはないが,5~10年の間に能力評価,業績評価によって,順次三等工手に昇格し,伍長は三等工手の中から選ばれる(以下同じ)ことである。…
…元来は区分されていることを意味する語であるが,そこから派生した,位,身分という意味が士農工商の区分けと重なって江戸時代には一般化した。〈分に過たる衣裳を是非に着よと言ものはなき事なり〉(石田梅岩《斉家論》)のごときが典型的な用例だが,さまざまな名辞と結びついて相似たニュアンスの中で使われた。…
…犯罪は,その行為主体について制限のないのが一般であるが,場合によっては,一定の身分を有することが必要なこともある。このような犯罪をとくに身分犯と呼ぶ。…
※「身分」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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