広義には、犯罪者の人格を考慮した取扱いをいう。刑事政策上の原義は治療treatment。とくに臨床心理学的・精神医学的知識に基づく技術的くふうがあるべきものとされ、刑事政策における科学主義の要請がそのような形で生かされる。狭義では改善目的を含み、対象者の社会復帰、社会生活への適応を目標とする。それゆえ、その者の資質および環境に応じて改善の意欲の喚起および社会生活に適応する能力の養成を図る。適応はその生活環境の問題と相関的に理解されなければならないから、環境調整のことも処遇の観念に組み込まれる。また、対象者の個人的条件はそれぞれに異なるので、処遇はおのずからにして個別的なものになる。
処遇の観念と分類制度とは不可分の関係にあるとされる。形式的にみて施設内処遇と社会内処遇とを区別しうる。施設内処遇とは、対象者の生活の本拠および処遇のための基礎的条件が特定の施設に設定される場合をいい、自由刑の執行や少年院への収容がその例である。いずれの場合にも、対象者の処遇にふさわしい拘禁・収容施設を決めるための分類と、各人に適した個別処遇のための分類とが考慮されるが、刑罰の場合は犯罪に対する応報、行為に対する否定的評価の具象化の意味合いが強く、保護処分の場合は少年の健全育成を目的とする福祉的意味合いが強いので、分類の制度的構成にも違いが生じる。処遇の観念は本質的に後者になじみやすいものであるが、この観念が刑罰の領域に導入され、そのための制度構成が試みられたところに刑事政策的意義が認められる。社会内処遇とは、対象者の生活の本拠および処遇の基礎的条件が一般社会に設定される場合をいい、保護観察がその例である。ケースワークの理論と技術の活用が理想とされる。また、施設内処遇と社会内処遇の中間的な処遇形態が、前者の弊害を回避し後者の不足を補うためにくふうされる(外部通勤制、帰休制、開放施設における開放処遇、休日拘禁など)。なお、広義での司法段階における処遇選択の意味で、司法的処遇という観念の重要性を説く者もある。
人間の他律的行動変容は困難である。犯罪の観念は本質的に有権的な価値観に制約されているので、犯罪者に対し、「心の病」理論や学習理論などによる措置を一律・直線的に適用することには無理がある。第二次世界大戦前から1970年(昭和45)ごろにかけて操作主義の処遇論(積極的処遇論)が盛んに行われたが、現在はその反省期にあって、より総合的な人間科学への配慮が要求されており、とくに対象者の人権保障と心身の健康管理を重視する(消極的処遇論)。
[須々木主一]
…これらの影響を受けて刑法における近代学派が誕生し,F.vonリストらは応報刑に反対して目的刑を主張するに至った。このような経緯をへて応報的刑罰に代わり,個人的な理解を中心とした人間的・心理的な取扱いがなされはじめ,処遇treatmentと呼ばれるようになった。20世紀に入ると,ドイツのグルーレやアメリカのヒーリーW.Healyらを嚆矢(こうし)として,非行原因の実態調査を基礎に処遇を行う科学主義が導入され,さまざまな分野において科学的研究が活発に進められた。…
※「処遇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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