改訂新版 世界大百科事典 「ミスル銀行」の意味・わかりやすい解説
ミスル銀行 (ミスルぎんこう)
Bank Miṣr
エジプト最初の民族銀行。1920年,タラアト・ハルブが民族産業振興を目的にエジプト人出資者から8万エジプト・ポンドを募り,同行を設立した。第1次大戦中に成長した土着ブルジョアジー・地主層の投資や,22年イギリスの軍事占領を脱したエジプト政府の国内産業奨励政策を背景に,同行の資本と預金高は伸び続け,農民融資をはかる一方,22年から直接経営による一連の商工業企業群(ミスル・グループ)の設立に着手した。27年設立のミスル紡績織物会社は近代的大規模工場で,エジプト民族工業の幕明けとなった。ミスル・グループは繊維工業を中心に,世界恐慌下の政府保護関税と国内工業投資増をてこに30年代に著しく成長を遂げ,第2次大戦中の特需で同行を中核とする一大ミスル財閥が形成された。ミスル銀行は,エジプトが綿花モノカルチャー経済を脱皮し土着資本主義の発展をみるうえで重要な役割を果たした。
執筆者:藤田 進
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