ヨワ吟(読み)ヨワぎん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヨワ吟」の意味・わかりやすい解説

ヨワ吟
ヨワぎん

謡のうたい方の名。「弱吟」「柔吟」とも書く。ツヨ吟に対する。発声をやわらかめに扱ってうたうもの。ツヨ吟に比して旋律的であり,中音とその完全4度上の上音,および完全4度下の下音の3個の音を基本として,音階組織がより豊かで音程も比較的定まっている。ツヨ吟よりも歴史は古く,謡曲大成期にやや近い頃までさかのぼった記録が残っている。上中下3音のほか流儀によっては上音の1音上の上ノウキが多用され,また一般に上ノウキの半音上のクリや,中音の1音上の中ノウキ,下音の完全4度または完全5度下の (りょ) 音などが適宜に用いられ,変化のある音楽的な表情を表わす。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のヨワ吟の言及

【謡】より

…それに対しフシは,音楽的に作曲されている部分で,謡本ではゴマ点によって作曲の内容が示される。フシは,さらにヨワ(弱)吟とツヨ(強)吟の2種に分けられる。両者は,発音,発声,息扱い,ビブラートのつけ方,音階などの相違の総合によって,きわめて対照的な性格を見せ,ヨワ吟は優美,風雅,温和,哀愁などの表現に,ツヨ吟は勇壮,厳粛,爽快,祝賀などの表現に,それぞれ用いられる。…

【能】より

… こうしたくふうの積み重ねにもとづく様式の部分的変動は,後にも長く続く。たとえば,現在の(うたい)にあるヨワ(弱)吟,ツヨ(強)吟という二つの吟型(ぎんがた)が分化したのは江戸時代17世紀末のことだが,その音階はその後も変化を続け,現在の音階に固定したのは江戸最末期から明治時代にかけてである。また詩型とリズムの関係を規制する地拍子も,現在の形式となったのは明治時代以降である。…

【発声】より

…このことは,歌舞伎狂言にも踏襲され,こうした伝統的な演劇においては,マイクロホンなどを使用しなくても,大きな劇場で,観客にそのせりふを理解させうることができる。そして,能では,とくに謡(うたい)と呼ばれる歌唱となると,江戸時代後期以降と思われるが,〈ツヨ(強)吟〉(または〈剛吟〉)と呼ばれる,ノドを強くしめて力強い声を発する発声法が生まれ,それ以前の〈ヨワ(弱)吟〉(または〈和吟〉)と対立するようになり,この2種の発声を使い分ける点に,現在の能の謡の特色があるようになっている。浄瑠璃においては,とくに義太夫節などは,1人の語り手(太夫)が,種々の役柄を語り分けるために,さまざまな発声上の技巧が発達した。…

【フシ(節)】より

…節付けなどというときのフシがこれである。次に,能の(うたい)では,音楽的に作曲されている部分,すなわちヨワ吟とツヨ吟の部分をフシという。この場合は,作曲されていないコトバに対する。…

※「ヨワ吟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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