リバース・イノベーション(読み)りばーすいのべーしょん(英語表記)reverse innovation

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

リバース・イノベーション
りばーすいのべーしょん
reverse innovation

新興国で生まれた技術革新(イノベーション)や、新興国市場向けに開発した製品、経営のアイデアなどを先進国に導入して世界に普及させるという概念。先進国の技術や商品を新興国へ移転するという従来手法とは逆に、新興国から先進国へ逆流reverseさせるので、リバース・イノベーションとよばれる。2010年代初めに、ゼネラル・エレクトリック社(GE)最高経営責任者のジェフリー・イメルトJeffrey R. Immelt(1956― )やアメリカのダートマス大学教授のビジャイ・ゴビンダラジャンVijay Govindarajan(1949― )らが提唱した。2012年に、ゴビンダラジャンらが出版した書籍『Reverse Innovation―Create far from home, win everywhere』(Harvard Business Review Press、邦訳リバース・イノベーション』、2012年、ダイヤモンド社刊)によって概念が広く知られるようになり、グローバル経営の新潮流として注目されている。

 典型例はアメリカのGEヘルスケア社がインド市場向けに開発した800ドルという格安の心電計である。インド市場にあうように価格を抑えるため、大幅に設計を簡素化し持ち運びできるように小型軽量化したことが奏功し、3000ドルする従来の大型装置に手の届かなかったヨーロッパ諸国の開業医らに受け入れられ、全世界に普及した。このほか、小型のドラム式洗濯機、耐用期間の長いトラクター、ガスで動く小型発電機など、中国、インド、中南米市場などで開発された製品・技術が先進国で広く受け入れられる例が増えている。一般に、新興国では通信や電力などのインフラストラクチャーが未整備なうえ、原材料部品・資金なども不足がちで、需要側の購買力も低い。こうした市場で要求される技術や製品は、低価格、簡素な設計、単純な機能、高い耐久性などであるため、従来とは異なる条件での開発が求められる。リバース・イノベーションが重視される背景には、製品開発には不利な状況下で、なかば白紙の状態からこそ、斬新な技術や画期的アイデアが生まれやすいという考え方がある。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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