毎秒当りのエネルギーを一般に仕事率というが,電気エネルギーの場合にはこれを電力と呼び単位をワット(記号W)で表す。すなわち1W=1J/sである。また,電気エネルギーを電力量と呼びWs,Wh,kWhなどの単位を用いる。
電気回路のある枝に流れている電流をi(t),枝の両端の電圧をv(t)とするときv(t)×i(t)を瞬時電力,電圧電流ともある周期をもっている場合にその周期間で瞬時電力を平均した値を平均電力あるいは有効電力という。有効電力はその枝で毎秒当り消費される電気エネルギーである。
直流では電圧,電流とも一定であるから瞬時電力と有効電力は等しい。交流の場合,電圧,電流の実効値をV,I,電圧と電流の位相差をφとすると,有効電力はVIcosφで与えられcosφを力率という。交流ではさらにVIを皮相電力といい,VIsinφを無効電力と呼んでいる。位相差を-π/2≦φ≦π/2で表した場合,無効電力は正負両符号をとり得るが,電流が電圧より進んでいる場合を正と約束する場合が多いようである。回路にインダクタンスや静電容量があると,これらのリアクタンスには電気エネルギーが蓄えられる。有効電力が,ある枝の抵抗分で消費されるエネルギーを表すのに対し,無効電力の大きさはその枝に外部から供給されリアクタンス分に蓄えられるエネルギーの最大値を表す。このエネルギーは時間とともに外部にもどされるので消費される有効電力とは異なるが,電源としてはこれを供給する能力が必要になる。
執筆者:河野 照哉
電力は制御性,利便性,清潔性などの点で他のエネルギーに比べてとくに優れた特性を有しているため,歴史の発展とともにエネルギー全体のなかでの比重を着実に高めている。
ロシア革命の指導者であったV.I.レーニンは革命後の1920年にゴエルロ計画(国家電化計画)を作成したが,その際,〈共産主義とはソビエト権力に全国的電化を加えたものである〉と述べた。この言葉は国家体制の違いを超えて,電力が一国の経済社会の発展に最も重要な役割を果たすエネルギーであることを的確に予見したものとして広く知られている。
日本の歴史のなかで明治時代における〈文明開化〉のシンボルとされているのは1883年にできた鹿鳴館であるが,当時の上流階級が華やかな舞踏会を開くに当たって欧米的な雰囲気を盛り上げるためにはシャンデリアによる照明が最もふさわしいものと考えられた。電力の供給方式はまだ移動発電機によるものであったが,これによって都市における社交的な場の雰囲気は一変し,欧米化の傾向が急速に進んだ。
1887年に東京電灯会社の日本橋南茅場町第2電灯局が開設され,架空配電方式による一般供給が開始された。当初は照明用の分野で灯油ランプに代わって白熱灯が使われはじめたが電力は便利で清潔ではあるが価格が高かったため,一般の民家に電灯が広く普及したのは大正時代の初めであった。当時は電力はまだ高級消費財であったのである。
工業用動力の分野で蒸気機関が電動機に転換していくのは明治時代の末期から大正時代の初めにかけてであり,10年程度の間にほとんどの産業で電動機の馬力数が蒸気機関の馬力数を上回った。このような蒸気機関から電動機への動力機の転換を動力革命と呼んでいる。
動力革命が急速に進んだ理由を紡績業についてみると,電動機を用いることによって機械の回転速度が均一になった結果,故障の回数が減って生産性が上昇し,製品の品質もよくなったことがあげられる。電力の制御性が優れていることが生産性の向上と品質管理の高度化をもたらしたわけである。
照明,工業用動力そして通信の分野で電力は他のエネルギーに対して圧倒的な優位を示し,近代工業化社会の維持と発展に不可欠の役割を果たすようになったが,第2次大戦後の技術革新の進展の過程でその重要性は一段と高められており,また家庭生活の電化も著しく進んでいる。
このため,先進工業国においてはエネルギー消費量全体に占める電力生産用のエネルギーの比率は急速に増大している。その比率は1970年には20%台であったのが,95年にはアメリカが40.3%,日本が40.6%など大幅に増大しており,とくにフランスでは47.3%とエネルギー消費量の半分近くが電力生産のために用いられている。
ポスト工業化社会は高度情報化社会ともいわれ,経済社会の活動や家庭生活において情報が重要な役割を果たしており,電力の重要性はさらに高まっている。
工場では生産工程はいっそう精密化し,製品の品質管理はますます厳格さが要求されるようになっており,設計,製造,出荷の全過程で情報化が著しく進んでいる。金融,流通,通信などの分野の発展も情報化の進展と切り離せない。家庭生活の中にもパソコンやファクシミリなどの情報機器が普及している。このような経済社会を維持するためには高い制御性をもつエネルギーの供給が不可欠であり,そのような機能を果たしうるのは電力以外にはない。
現在,電力以外のエネルギーが主として用いられているのは輸送機関,鉄鋼生産,化学原料などの分野である。これらの分野では石油,石炭などが電力に比べて経済性の面で有利であり,これらの分野で電力が大きな比重を占めるようになるとは思われない。
しかし,それ以外の分野では電力はますます多く利用されるようになり,21世紀初頭には多くの先進工業国ではエネルギー消費量全体の50%近くが電力生産用に消費されるようになるものと予想される。
執筆者:鈴木 岑二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
単位時間に電流によってなされる仕事量.単位としてはワット(W)が用いられる.直流電流Iによって抵抗R中で消費される電力Pは,抵抗の両端に加わる電圧をVとすると,
P = VI = RI 2
で表され,ジュール熱として抵抗中で失われる.交流の場合には,回路に交番電圧
e = E sin ωt
が加えられ,そのとき流れる交流電流が
i = I sin (ωt - φ)(φ:位相角)
であるとき,
P = ei = EI sin ωt sin(ωt - φ)
を瞬間電力といい,これを交流の一周期Tにわたって平均した値を平均電力という.
ここで,
Ee = E/,Ie = I/.
Ee および Ie はそれぞれ電圧および電流の実効値であるが,EeIeのことを皮相電力,EeIe sinφを無効電力,EeIe cosφを実効電力という.皮相電力中,実際に有効に使われる電力は,実効電力の部分だけであるので,後者の前者に対する比を力率といい,実用電気機械では力率が大きくなるよう工夫されている.ある時間にわたって積算した電力の値は積算電力とよばれ,ワット時(W h),キロワット時(kW h)単位で表されるが,一般にはこの値を単に電力とよぶこともある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
1秒間に行う電気的仕事をいう。一般に1秒間に行う仕事を仕事率というのに対し、電気工学では電力という術語を使っている。直流回路の抵抗の両端に電圧を加えると、抵抗中を電流が流れる。これは電界によって荷電粒子(多くの場合電子)が力を受けて動く現象で、エネルギーを消費する。このエネルギーは電源から供給されたものであり熱に変わる。この場合の仕事率すなわち電力は、電流の2乗と抵抗の積に等しい。これは抵抗の両端の電圧と抵抗を流れる電流の積に等しい。交流回路の場合は電圧、電流ともに変化しているので、1周期の平均を電力といい、電圧、電流に実効値を用いれば、直流の場合の関係がそのまま成り立つ。しかし、回路に抵抗成分(おもに抵抗器による)とリアクタンス成分(おもにコイルやコンデンサーによる)を含む場合は、エネルギーを消費するのは抵抗成分だけであり、リアクタンス成分はエネルギーを消費しないので、回路の両端の電圧と、回路に流れる電流の積は電力を表さない。これは見かけの電力であり皮相電力とよんでいる。電力を皮相電力と区別する必要があるときは有効電力という。これに対して、純粋なリアクタンス成分のみが負荷の場合、電源と負荷の間を行ったり来たりして消費されない電力を無効電力とよぶ。有効電力を実数部とし無効電力を虚数部として複素数(実数と虚数単位で表される数)表示したものを複素電力といい、実数部の2乗と虚数部の2乗を加えて平方根をとったものが皮相電力である。電気的エネルギーでは、それが熱に変換される場合に限らず、たとえばモーターのように機械的エネルギーに変換される場合でも、その仕事率は電力である。
さらに電磁波のように、端子間の電圧や、導線を流れる電流も存在しない場合でも、電力は存在する。この場合は、電界と磁界のベクトル積が単位面積当りの電力の流れを表す。これはポインティング・ベクトルとよばれている。毎秒1ジュールの仕事率を1ワットと定めてある。
[布施 正・吉澤昌純]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 東京電力ホームページ電気・電力用語について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…とくに周波数の大きい(ふつうは数百Hz以上)場合は高周波電流と呼ぶ。電力会社から送電される電流はおもに交流で,その周波数は関東では50Hz,関西では60Hzである。電気伝導変位電流
[電流の諸作用]
電流のもつおもな作用には化学作用,熱作用,磁気作用がある。…
…仕事率(工率),電力あるいは放射束の単位で,記号はW。1W=1J/sである。…
※「電力」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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