改訂新版 世界大百科事典 「ミーラージュ」の意味・わかりやすい解説
ミーラージュ
mi`rāj [アラビア]
元来は〈はしご〉を意味する語。後にはとくに〈ムハンマドの昇天〉の意に用いられるようになった。コーランは神を天国に至る〈はしごの主〉であると述べ(70:3)ており,またムハンマドを連れて聖なる礼拝堂al-masjid al-ḥarāmから遠隔の礼拝堂al-masjid al-aqṣāまで夜の旅(イスラーisrā')をしたと記している(17:1)。聖なる礼拝堂とはメッカのカーバを指し,遠隔の礼拝堂とは天国を意味したが,後世のハディース(伝承)は遠隔の礼拝堂をエルサレムの神殿に比定し,ムハンマドは天使ガブリエルに連れられて,翼のある天馬(ブラークBurāq)に乗り,エルサレムに旅してそこから光のはしごを登って昇天し,神の御座にひれ伏したと伝えている。ムハンマドの昇天が単なる夢か,現実のできごとかはムスリムの間でも早くから意見が分かれていたが,ミーラージュの観念はファナー(自我意識の消滅)に至る霊魂高揚の階梯のシンボルとして,後のイスラム神秘主義思想に影響を及ぼした。また,ダンテの《神曲》の構想にも影響を与えたといわれる。ラジャブ月27日の前夜が〈ミーラージュの夜〉に当たるとされ聖夜の一つに数えられる。
執筆者:佐藤 次高
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報