ハディース(読み)はでぃーす(英語表記)adīth

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハディース」の意味・わかりやすい解説

ハディース
はでぃーす
adīth

一般には「物語」「報告」を意味するが、イスラム用語としては預言者ムハンマド(マホメット)の言行の記録、あるいは記録集をさし、「伝承」と訳される。預言者の言行それ自体はスンナ(預言者の範例)とよばれるが、ハディースはスンナの正式な記録として一定の形式をもつもので、「イスナード(伝承者の系譜)」と「マトン本文)」からなり、スンナが本文をなす。預言者の没後も、預言者を直接に知る世代にとっては、スンナはハディースという形式をとる必要もなく口伝され、また初期イスラム共同体の慣行のうちに言語化されない形で存在していると考えられていた。そこからしだいに発展した初期(7世紀末まで)のハディースにはイスナードをもたないものも多い。

 預言者の時代から隔たると、預言者の伝説化を含む伝承の偽作を生み、また法学の体系化の過程でスンナの重要性が増し、それにつれて各地方ごとの慣行に基づくスンナの不一致が問題となり、さらに諸事情が重なって、正しいスンナの正確な記録の必要が要請された。そのため、イスナードを伴うハディースの収集が8世紀ころから盛んになる。このような状況下で、正式なハディース以外のスンナをスンナと認めず、ハディースとスンナの一体化を法理論上で決定したのがシャーフィイー(767―820)である。9世紀末ごろまでに膨大な数の伝承が収集され、多くの伝承集が編まれたが、スンニー派にとり権威があるとされるのは次の「六伝承集」である。すなわち、ブハーリー(810―870)とムスリム(817/821―875)おのおのによる二つの『サヒーフ集』と、アブー・ダーウード(817―888)、アッ・ティルミーディー(824―892)、イブン・マージャ(824―887)、ナサーイー(830―915)おのおのによる四つの『スナンの書』である。

 ハディース学は収集された伝承の真偽の判別批判の学である。判別基準は本文の内容ではなく、イスナードに求められ、その系譜にある伝承者の資質と直接的伝達の可能性からみて、各伝承は「真(サヒーフ)」「良(ハサン)」「不良(ダイーフ)」の3等級のいずれかに分類される。

[小田淑子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハディース」の意味・わかりやすい解説

ハディース
Ḥadīth

「伝承」を意味するアラビア語。一般には,預言者ムハンマドの言行に関する伝承をさす。イスラム法学の発達とともにハディース学も発達し,伝承の内容 (マトン) と並んで伝承の伝達の過程および典拠 (イスナード) も重視された。

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