内科学 第10版 「二次性赤血球増加症」の解説
二次性赤血球増加症(赤血球系疾患)
二次性赤血球増加症は原因がさまざまであるが,EPO産生亢進によって赤血球系細胞の過剰増殖をきたした病態と定義できる.さらに代償性と恒常性とに大きく分類される.代償性の場合は低酸素血症によるものがほとんどで,高地在住,高地でのトレーニング,肺性心などの肺疾患,Fallot四徴症などの先天性心疾患,高度肥満やPickwick症候群による低換気症候群が含まれる.低酸素血症によらない機能性低酸素血症には酸素親和性亢進型の異常ヘモグロビン症,過度の喫煙や慢性一酸化炭素中毒などがある.恒常性の場合にはEPO産生を制御する分子(VHL,PHD2,HIF-2αなど)の遺伝子変異に起因するものとEPO産生腫瘍がある.
病態生理
EPOの産生調節に中心的役割を演じるのが低酸素誘導因子-1(hypoxia-inducible factor-1:HIF-1)転写因子でHIF-1αとHIF-1βからなる.HIF-1αは正常酸素分圧下ではプロリン水酸化酵素(prolyl hydroxylase:PHD)によって402番目と564番目のプロリン残基が水酸化を受け,E3ユビキチンリガーゼ複合体の1つであるVHLと結合することでユビキチン化を受け,プロテアソームで分解される.一方,低酸素分圧下ではPHD活性が低下し,HIF-1αはユビキチン化されずにプロテアソームでの分解を免れる.そのためHIF-1αの発現は維持され,HIF-1βと複合体を形成することによって標的遺伝子の1つであるEPO遺伝子の転写を誘導する(図14-9-18).したがって高地在住,肺疾患,低換気症候群などの低酸素状態ではHIF-1α発現の安定化によりEPO産生が亢進し,赤血球増加をきたす.異常ヘモグロビン症のなかにはヘモグロビンと酸素の親和性が高いために組織で酸素欠乏状態となり,同様の機序でEPO産生が亢進し,赤血球増加症をきたすものもある(Hb Hiroshima,Hb Yakimaなど).さらに腎細胞癌の腫瘍随伴症候群の1つとしてEPO産生過剰による赤血球増加症がみられるが,これにもHIF-1αの発現亢進が関与する.[小松則夫]
■文献
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報