日本大百科全書(ニッポニカ) 「U・S・A」の意味・わかりやすい解説
U・S・A
ゆーえすえー
アメリカの作家ドス・パソスの長編小説。『北緯四十二度線』(1930)、『1919年』(1932)、『ビッグ・マネー』(1936)の三部からなり、1938年『U・S・A』として刊行。20世紀初頭30年間のアメリカの歴史を、12人の主要人物の運命を通して描く巨大な絵巻模様の小説。断続し交錯する物語の合間合間に、新聞の切り抜き、流行歌などをコラージュ風に扱う「ニュース映画」、この時代の「有名人の小伝」、作者の思索を叙情詩風につづる「カメラの眼(め)」の3種の中間章を挿入するなどの実験的手法が用いられている。ここには歴史を動かすパワーをもつ英雄は登場しない。逆に、すべての人物は歴史にもてあそばれ、飲み込まれる平均的人間で、革命家たちでさえ偉大さの獲得はタブーで、ドス・パソスの筆は卑俗な人物たちの描写にもっとも冴(さ)える。だが、ときとして不快でさえあるこの日常的映像は、不思議な呪縛力(じゅばくりょく)をもって読者に迫ってくる。
[平野信行]
『並川亮訳『U・S・A』全6冊(新潮文庫)』