化学辞典 第2版 「交差分極」の解説
交差分極
コウサブンキョク
cross polarization
CPと略記されることがある.核磁気共鳴法において,双極子-双極子相互作用を通してあるスピンIの分極を種類の異なる別のスピンSに移動させる方法.通常,2種類の核スピンの共鳴周波数の電磁波を同時に試料に照射する.照射する時間を接触時間といい,1~10 ms の値を使う.二つの電磁波の強度(H1I,H1S)は,Hartmann-Hahn条件
(γIH1I = γSH1S:γI,γS は核磁気回転比)
を満たすように調整する.核スピンSが四極核で核四極相互作用により線幅が広がっている場合は,
γIH1I = ((2S + 1)/2)γSH1S
の条件を満たすように電磁波の強度を調整する.核スピンIとしては 1H を用いることが多い.1H の大きな分極を天然存在比が小さく感度の悪い 13C などに移すことにより,シグナル強度の増大をはかることができる.また,スピン-格子緩和時間の比較的短い 1H で積算の繰り返し時間を設定できるため,積算効率を上げることができる.一方,双極子-双極子相互作用を通して 1H の分極を移動させるため,1H から遠いスピンの信号を抑制し,1H 近傍のスピンのみを選択的に観測することができる.この目的のためには,核スピンIは 1H に限る必要はない.固体高分解能NMR測定においては,マジック角回転(MAS)と併用したCP-MAS(シーピーマス)法がよく用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報