核磁気共鳴法(読み)カクジキキョウメイホウ

化学辞典 第2版 「核磁気共鳴法」の解説

核磁気共鳴法
カクジキキョウメイホウ
nuclear magnetic resonance method

略称NMR法.試料を静磁場中に入れ,核スピンゼーマン効果を利用して電磁波との相互作用を観測することにより,物質の構造や運動について解析する方法.核スピンのまわり1 nm 程度の微視的な領域の情報が得られる.1946年,E.M. PurcellらとF. Blochらがシグナル検出に成功し,その後,半世紀の間に急速な進展をみせた.近年,超伝導磁石の高磁場化に伴い,用いられる静磁場の強度は20 T を超え,電磁波の周波数は数 MHz から1 GHz 近くにまで及ぶ.高分解能NMRでは,試料を溶媒に溶かして測定する.1H や 13C の測定時は,磁場ロックのために重水素化溶媒を用いることが多い.シグナル位置から化学シフト,スピン-スピン結合の情報が得られる.また,緩和時間からは分子運動に関する情報が得られる.化学交換がある系では,交換速度を求めることができる.当初は感度の高い 1H の測定が行われていたが,フーリエ変換NMRの登場により 13C,さらに多核へと応用が進んだ.測定法においても,一次元スペクトルの測定から二次元NMRをはじめとした多次元NMRに発展している.核オーバーハウザー効果(NOE)から距離情報を得ることができ,タンパク質のような巨大分子の立体構造解析に用いられている.固体試料のNMRでは,液体状態では時間的に平均化されて観測できない双極子-双極子相互作用,化学シフトの異方性,核四極相互作用などが現れ,広い線幅を示す.このため,広幅NMRともいう.線幅や緩和時間から原子や分子の運動の仕方や速さを調べることができる.固体試料の広い線幅を人工的に消去して,溶液NMR類似の高分解能スペクトルを得る固体高分解能NMRも用いられる.高分解能化のためにマジック角回転を使う.有機高分子の 13C,ケイ酸塩29Si の測定によく使われているが,ほかに 23Na,27Al,31P などをはじめとしていろいろな核種の測定が行われている.双極子-双極子相互作用の解析により,特定の原子間距離を精密に決定することもできる.固体NMRにおいても多次元NMRが行われており,溶液NMRではみられない固体NMR特有の周波数軸をもつ多次元スペクトルも観測されている.磁気共鳴映像法も核磁気共鳴法の一種である.また,磁場勾配を使って自己拡散係数の測定を行うことができる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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