木々高太郎(きぎたかたろう)の長編推理小説。1936年(昭和11)『新青年』に連載。作者提唱の探偵小説芸術論を実践に移した作品である。昭和初頭のプロレタリア運動と製薬会社の薬害問題を背景にして、殺人容疑者となったブルジョア家庭の転向者の青年とその祖母が中心人物として描かれているが、作者の視点は社会問題にはなく、主人公の青年の人間的成熟の過程に置かれている。したがって事件解明のサスペンスの盛り上がりには乏しいうらみがある。しかし、当時エロ・グロ調や怪奇趣味一辺倒の長編推理小説の分野で、インテリ読者を対象にした知的ミステリーとして評価を受け、推理小説としては初の直木賞を受賞した。
[厚木 淳]
敵を欺くために、自分の身や味方を苦しめてまで行うはかりごと。また、苦しまぎれに考え出した手立て。苦肉の謀はかりごと。「苦肉の策を講じる」...