改訂新版 世界大百科事典 「偽関節」の意味・わかりやすい解説
偽関節 (ぎかんせつ)
pseudoarthrosis
骨折の治癒障害の一つ。骨折が生じると時間の経過とともに骨折局所に修復機転が進行し,やがて骨折が治癒する。しかし骨折の治り方は,年齢,骨折自体の状態,全身状態など種々の因子の影響を受け,条件がよければ治癒機転は促進され,悪条件であれば治癒は遅れ,場合によっては治癒機転は中断する。偽関節は骨折後進展してきた治癒機転が停止した状態をいう。一方,骨折治癒機転の進行が遅れ,骨化が遅れているものを遷延治癒骨折と呼ぶが,この状態はしばしば偽関節に移行する。偽関節では骨折端の間には瘢痕(はんこん)組織がつまり,骨髄腔は閉鎖して断端の骨は硬化する。骨の連続性が絶たれているので異常可動性がみられ,その際疼痛を伴わない。偽関節部で絶えず運動が行われるために生物学的な機能の適応が起こって,可動部の周囲が関節包様の組織で包まれ,骨折端も滑らかとなり,ときには滑液様の液体も存在し,新しい関節が形成されたかのようになる。遷延治癒骨折にしろ偽関節にしろ,骨折治癒機転阻害因子の存在によりもたらされたものだが,病態生理上は明らかに区別される。すなわち遷延治癒骨折では,骨化の遅れはあるものの治癒機転がまったく消失しているわけではなく,骨折治癒を阻害する因子を除くことができれば,骨化機転を進行させることが可能である。強固な固定を継続して行ったり,骨折端を穿刺(せんし)して治癒反応の促進を試みたりする。一方,偽関節では,骨癒合機転がまったく消失してしまっているので,骨癒合をはかるためには骨折治癒阻害因子を除くとともに,手術的治療を行って積極的に治癒反応を再燃させなければならない。通常は骨髄腔を再開し,自家骨移植をやり,強固な内固定法がとられる。偽関節の好発するのは,関節内骨折,大腿骨頸部内側骨折,前腕両骨骨折,手舟状骨骨折などの場合である。
→骨折
執筆者:東 博彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報