精選版 日本国語大辞典 「適応」の意味・読み・例文・類語
てき‐おう【適応】
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生物のもつ形態、生理、行動などの諸性質が、その環境のもとで生活していくのに都合よくできていること、または、そのような状態に変化していく過程をいう。しかし、ある生物が適応しているといえる状態にあるからといって、その生物が生活上の目的にもっとも適した様式を採用しているとは限らない。また、ある形質が単に生活上適しているからといって、それが適応であるとは限らない。これは、自然選択(自然淘汰(とうた))の結果として生物が獲得した産物に対して適応ということばを用いるのが現在の生物学の慣例だからである。
[遠藤知二・河田雅圭]
かつては、生物のもつ合目的的(目的にかなう)な性質自体が超越者としての神の存在を示すものと考えられていた。「ペイリーの時計」として周知のところだが、時を刻むという目的をもった複雑な機械である時計の背後にはそれをつくった時計匠がいるように、合目的性を備えた複雑な器官を有する生物の背後にはそれをつくった神がいるはずだというわけである。
そうした目的論(テレオロジー)的説明に対して、生物の合目的性の由来を自然選択で説明しようとする「適応の科学」はテレオノミーとよばれ、現代生物学の全領域にわたる根幹的な概念装置となっている。適応の科学は、まず自然選択がどのように働くかを調べることによって成立する。生物がかならずしも最適な状態にあるといえないのは、自然選択が、同じ繁殖集団内の相対的適応度に対して作用するからである。つまり、ほかの繁殖集団中の個体のもつ性質に比べてより適しているとはいえなくても、同じ集団内のほかの個体に比べて有利である性質は、自然選択によって集団中に広まり、適応しているとみなされる。
[遠藤知二・河田雅圭]
生物のもつ形質には、それをもつことが、その「個体」の生存や繁殖に有利(利己的個体による適応観)だと簡単にいえない場合もある。ショウジョウバエのSD遺伝子は、減数分裂時にSDをもたない相同染色体に影響を与えて、SDをもたない精子の分離比に自らが多くなるようなひずみを生じさせる。そのことによって、SD遺伝子は選択上有利になるが、SD遺伝子をもつ「個体」は形成される配偶子の数が減少するため不利益を被る。つまり、SD遺伝子は個体の観点からはいわば無法者であるにもかかわらず、個体群中に広がりうる。このことは自然選択の働く単位が遺伝子であることを示しており、適応が何かにとっての善だとすればそれは遺伝子にとってであるとする、利己的遺伝子による適応観の論拠となっている。一般には、遺伝子は個体の繁殖を通じて広がるので、この二つの適応観は矛盾しないことが多いと予想される。
また、個体のもつ性質が、その個体の属する集団(個体群や種)の存続を有利にするようにみえる(利他的個体による適応観)こともある。しかし、集団を単位として自然選択が働くことも理論的にはありうるとしても、個体ないしは遺伝子の観点からの適応として理解することが可能である。たとえば、縄張り(テリトリー)をもつ動物では、個体数の増加が制限され、このことが個体群の絶滅を防ぐという機能(個体群レベルでの適応)をもつとみなされがちである。しかし、縄張りは、個体が自らの資源を確保するのに有利なために進化してきたものと考えれば、個体数の制限という現象は、その付随的結果であり、適応とはみなされない。
一方、生物のもつ形質を厳密に自然選択の結果できた適応的なものとして説明するのはしばしば困難が付きまとうし、形質のなかには適応的には中立なものも多いだろう。生物の示す複雑なパターンに、適応的な意味をみいだそうとする試みは、新しい発見をもたらすうえで価値があるが、検証のむずかしい適応的解釈を生むことも否めない。実際には、生物がいかなる拘束のもとで物理的・生物的環境の与える問題を解決しているかを探ることが、適応の科学のあり方といえる。
[遠藤知二・河田雅圭]
環境からの働きかけに生活体がこたえるだけでなく、生活体の側からの諸欲求も充足されている関係をさす。しかし現実的には生活体の欲求がつねに充足されるとは限らない。欲求が阻止されると生活体はフラストレーション(欲求不満)状態に置かれる。したがって狭義には、適応はフラストレーションを解消する過程であり、その努力であるといえる。
適応の過程は、(1)動機(欲求が目標への行動を惹起(じゃっき)する)、(2)障害(妨害され行動が行き詰まる)、(3)反応(妨害に対する問題解決の試み)、(4)緊張の解消(目標への解決方法が発見され満足する)、の四つのサイクルで説明される。また適応は順応と区別され、とくに社会的順応とよばれる。順応が環境の変化に伴って生活体自身が変容する生物・生理的意味が強いのに対して、適応は生活体が環境に対して働きかけることによる社会・行動的側面が強調される。
[織田正美]
『波多野完治著『適応理論』(『現代教育心理学大系11』所収・1957・中山書店)』▽『戸川行男著『適応と欲求』(1956・金子書房)』
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…しかしこれをどのようにせばめるか,どのように定義するかについては,現在のところ一致した見解があるわけではない。
[適応体系としての文化]
その中の一つは,文化を自然環境に対する適応の体系として見る見方である。主として猿人類から新人類にいたる文化の発展を研究する立場に立つ人々と,文化を生態学的に研究する立場に立つ人々がこの見方をとり,文化を,生態学的に有用で,社会的に伝達される行動様式としてみ,文化の変化を適応の過程と見る。…
…一次求心繊維の放電頻度の時間経過をみると,一定の大きさの刺激を持続的に与えているにもかかわらず,しだいに低下してくる。この現象を順応adaptationという。これに相当する現象はすでに受容器電位(または起動電位)にも起こっていることが確かめられている(図2)。…
…チャップリン,ロイド,キートンらの喜劇も最初はシナリオを使わず,むしろギャグのアイデアを書くだけのもので,シナリオライターというよりはいわゆるギャグマンあるいはギャグライターにすぎなかった(例えばフランク・キャプラ監督はハリー・ラングドンの喜劇のギャグマンから出発した)。しかし,映画が長尺になり,劇的な内容をもつに従がって,シーンを順に追ってストーリーを構成するシナリオの重要性が認識され,やがて映画製作の職能的分業化が進み,さらに〈文芸作品〉の映画化が盛んになるにつれて〈adaptation〉(脚色,アダプテーション,すなわち映画向きに改作すること)が映画製作の出発点になり,脚本は絶対必要条件として主要な撮影所には〈脚本部〉が設置され,シナリオの理論的探究も始まった。トーキーの時代を迎えると,サイレント映画の字幕に代わる台詞(dialogue)の問題が生じ,劇作家や小説家が映画のシナリオに参加するようになり,シナリオの重要性が改めて強調されたが,そのために,いきおいせりふが多くなって,サイレント時代に完成された純粋に視覚的な映画演出の基盤がくずれ,映像よりもことばに頼る傾向が強くなり,〈映画芸術〉の発達を遅らせる結果になったことも事実である。…
…たとえばメダカなどの淡水魚が徐々に塩水になれて,最終的に海水でも生活できるようになる塩分順応,高温や低温で飼育された動物が,それぞれ高温や低温に強くなる温度順応,空気の希薄な高地に数日~数週間滞在すると血中ヘモグロビンが増加し,肺や心臓の機能が調整されて平常に近い活動ができるようになる高度順応など,さまざまの環境要因にたいする順応がある。一般には非遺伝的な適応adaptation現象であって多くは可逆的変化である。実験的に特定の環境条件を変化させたときに生じる順応(順化)acclimationにたいして,季節や地理的条件などの違いによる自然環境下でみられる順応を気候順化acclimatizationという。…
…馴化とも書く。広い意味では環境への適応あるいは順応と同義で用いられる場合もあるが,ふつう生物学用語としては,適応がかなり長い時間経過の間に,形態や生理が変化し固定されることをいうのに対して,順化は,せいぜい数週間以内で生理機能を環境にうまく合わせることをいう。環境に対する生体の反応は時間の短いほうから順に,反応―順応―順化―適応というが,互いに重なり合った概念でもあり,あいまいな使われ方をする場合が多い。…
…たとえばメダカなどの淡水魚が徐々に塩水になれて,最終的に海水でも生活できるようになる塩分順応,高温や低温で飼育された動物が,それぞれ高温や低温に強くなる温度順応,空気の希薄な高地に数日~数週間滞在すると血中ヘモグロビンが増加し,肺や心臓の機能が調整されて平常に近い活動ができるようになる高度順応など,さまざまの環境要因にたいする順応がある。一般には非遺伝的な適応adaptation現象であって多くは可逆的変化である。実験的に特定の環境条件を変化させたときに生じる順応(順化)acclimationにたいして,季節や地理的条件などの違いによる自然環境下でみられる順応を気候順化acclimatizationという。…
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