改訂新版 世界大百科事典 「優婆塞優婆夷」の意味・わかりやすい解説
優婆塞・優婆夷 (うばそくうばい)
優婆塞(サンスクリットupāsakaの音写。清信士・近事男などと漢訳される)は男性の在家信者,優婆夷(サンスクリットupāsikā,その俗語形uvāyiの音写。漢訳は清信女・近事女など)は女性の在家信者のこと。五戒を守り,出家に近侍して世話をする。もともと在俗男女の仏教信者のことであるが,日本,とくに奈良時代には民間の宗教者を指していた。半僧半俗的な生活形態をとり,山林にあって修行し,呪術にたけていた。山岳・山林にいた修験者的な呪術者は〈優婆塞〉とも〈禅師〉ともいわれた。このような宗教者の典型は役小角(えんのおづぬ)(役行者)であり,彼は役優婆塞とよばれている。《日本霊異記》には沙弥・禅師とともに優婆塞に関する説話が多く出ている。僧形異端の女性宗教者が優婆夷とよばれることもあった。また,童子から優婆塞となり,さらに得度して僧へ進むものもあり,優婆塞は僧と俗,寺院と社会の結節点にあって,民間仏教の形成に少なからぬ貢献があった。
執筆者:伊藤 唯真
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