( 1 )中国では、宋代に「瓦子」と呼ばれる盛り場の演芸場で行なわれた語り芸をいうが、すでに唐代においても、世俗教化のために寺院が催す講筵・説経の場で行なわれる語り芸を称していたと考えられている。
( 2 )日本では中古・中世を通じてもっぱら①の「話す」意で用いられていたが、神話・伝説・昔話などの総称としても使われ、現代では「今昔物語集」などの説話集の類を構成する一話一話を指してもいうようになる。
中国では,まとまった物語を語る話芸を,かつて〈説話〉と呼んだ。この場合,説話の〈話〉とは物語を意味する。この語の用例は,すでに隋・唐代(6~10世紀初め)に見られるが,文学用語としては,そのような話芸が,専門の芸人によって語られ,芸能として定着した宋代におけるそれをもっぱら指す。
すでに唐代では,寺院などにおける宗教的説法から発展し通俗化した〈俗講〉または〈変文〉が行われていたが,宋代になると,商業経済の急速な発達と新しい市民階層の台頭によって,北宋の首都開封や,南宋の首都杭州のような大都会が繁栄し,盛場(瓦子)の芝居小屋(勾欄)では,簡単な劇や講談,軽業などのさまざまな演芸が演じられた。その中で,もっぱら話芸に属するものを説話,その芸人を〈説話人〉,またその筆録を〈話本〉といった。その具体的内容や芸人の名前は,開封のようすを書いた《東京夢華録》,杭州に関する記録である《都城紀勝》《西湖老人繁勝録》《夢粱録》《武林旧事》の諸書にみえ,とくに《都城紀勝》と《夢粱録》では,説話を4家に分類している。ただし,その分け方は明確さを欠き,いくつかの解釈が可能であるが,〈小説〉〈説経〉〈講史書〉の3家は,どの解釈によっても共通する。
小説は一名〈銀字児〉ともいい,市井のさまざまな物語を語る短編の話で,内容によって,さらに煙粉(恋愛物),霊怪,伝奇,公案(裁判物),鉄騎児(軍記物)などに細分される。宋・元代の小説の種本とおぼしい《酔翁談録》には,当時の小説の題目107種が列挙されており,また明代の《清平山堂話本》や《三言》は,宋・元代の小説の話本をもとに改作したものである。説経,または談経,唐代の俗講に由来するもので,〈仏書の演説〉を内容とし,これにはさらに禅問答のまね事である〈説参請〉,滑稽を主とする〈説諢経(せつこんきよう)〉が含まれる。講史書は,三国史,五代史などの長編の歴史物語で,その筆録をとくに〈平話〉といった。現存するものとして《五代史平話》《宣和遺事》《三国志平話》などがあり,のちの《三国志演義》などの長編小説へと発展していく。4家のうち,以上の3家を除く1家については,学者の間で説が分かれ,与えられた題により,その場で詩をつくる即興の芸である〈合生〉(合笙ともかく)を採る説,合生となぞ解きの〈商謎〉を採る説,滑稽話である〈説諢経〉を採る説,または小説の中から公案と鉄騎児,あるいは鉄騎児のみを独立させる説などさまざまで一致をみない。なお,これらの諸芸はそれぞれ専門の芸人によって演じられ,また芸人たちは当時の慣行にしたがって,同業者組合を結成していた。宋代の説話人の組合としては,〈雄弁社〉の名が知られる。
宋代の説話,とくに小説と講史書は,元代以降の小説の発展の母体となったもので,文学史上,重要な意味をもつ。またその話芸としての側面は,現代にまで受け継がれているが,現在一般には説話の名称は用いられず,〈説書〉といわれている。
執筆者:村松 暎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
文字によらずに、口伝えによって継承される口承文芸のうち、散文で表現されるもの。歌謡の対。神話、伝説、昔話、世間話などが含まれる。体験的事実の報告ではなく、伝聞による報告であるところに特色がある。歌謡が表現の形式を重視し、おおむね音楽と一体になって歌われる文芸であるのに対して、説話はストーリーの展開に主眼を置いて語られる文芸である。沖縄県宮古(みやこ)列島では、説話に相当するものをユガタリ、歌謡に相当するものをアヤゴ(アーグ)とよぶ、文芸に関する語彙(ごい)体系がある。ユガタリは説話とまったく等しい概念で、神話、伝説、昔話、世間話を包括し、やはり伝聞の形で語るものであるという。文学史上では「物語」とよばれるものがほぼ説話に一致する。『今昔物語集』が「――と語り伝えたということである」と結んでいるのはその典型であるが、文学のほうでは、説話といった場合には短編の説話をさし、長編のものは物語とよぶのが普通である。
[小島瓔]
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