梵名は波吠儞耶(はべいにや)(= pravraiyā の音写)。俗世間の塵を離れるところから「出塵」、鬚髪を剃り壊色(えしき)に染めた衣をまとうところから「剃髪」「落飾」ともいうが、日本では「落飾」を特に身分の高い人の出家に用いる。
サンスクリットのプラブラジャーpravrajyāまたはプラブラジタpravrajitaの訳。家を出て仏門に入ること。在家の対。家庭生活を捨て,世俗的な執着を離れて,もっぱら仏道を修行すること。またはその人をいう。仏門に入って僧尼となることである。仏教徒の集団を構成する七衆のうち在家の優婆塞(うばそく)・優婆夷(うばい)を除く,比丘(びく),比丘尼,式叉摩那(しきしやまな),沙弥(しやみ),沙弥尼の五衆は出家のなかに入る。鬚髪(しゆはつ)を剃り,墨染など壊色(えしき)に染めた衣をまとう状態になるので剃髪染衣(ていはつぜんえ)といい,とくに王侯貴族の出家は落飾(らくしよく)という。また出家した者が在家俗人の生活にもどるのを還俗(げんぞく),復飾という。日本では敏達天皇のとき司馬達等の娘善信尼が出家したのが最初とされる。古代は僧となるのは官許制で,民間にははやくから官許を得ない私度僧や自由出家者が現れ,聖(ひじり)などといわれたが,そのほとんどが在俗生活を送る,いわゆる半僧半俗者であった。僧であって,しかも家庭をもった者も各時代にみられ,親鸞も自己の立場を非僧非俗と述べている(《教行信証》)。1872年(明治5)僧侶の肉食・妻帯・蓄髪が公許され,形態的には在俗者と変わらなくなり,出家者の世俗化に拍車を加えた。
執筆者:伊藤 唯真
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家庭生活を離れて仏門に入り、専一に修行の道に励むこと、またその人をいう。パーリ語のパッバッジャpabbajjaまたパッバジタpabbajita、サンスクリット語のプラブラジュヤpravrajyaまたプラブラジタpravrajitaの訳で、自分の生まれた家、あるいは所属する家を出ること、またその人の意。出家人、道人(どうにん)、沙門(しゃもん)、比丘(びく)ともいい、一般に僧侶(そうりょ)ともよばれる。在家(ざいけ)また在家人、居士(こじ)、世人(せじん)に対する語。両者をあわせて道俗、僧俗とよぶときの「道」あるいは「僧」をさす。
出家の風習は、元来、古代インドの修行者の間で行われていたもので、出家にあたっては親権者の承諾を必要とした。出家者には、比丘(びく)・比丘尼(びくに)・正学女(しょうがくにょ)(式叉摩那(しきしゃまな))・沙弥(しゃみ)・沙弥尼(しゃみに)の5種があり、これを五衆(ごしゅ)という。沙弥・沙弥尼は十戒を、正学女は六戒を、比丘・比丘尼は具足(ぐそく)戒(パーリ律ではそれぞれ227.311、四分律(しぶんりつ)では250.348)を受けておのおのの身分となる。出家すると、世俗時の苗字(みょうじ)や名前を捨てて、新たに出家者の名前(僧名)がつけられる。また、自らの所属する家庭あるいは一族の構成員としての冠婚葬祭などの義務や、財産相続・分与などの権利を放棄することになる。なお、在家から仏門に入ることを中国・日本では得度(とくど)という。
[阿部慈園]
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…上座部仏教の中核はサンガである。サンガとは,いっさいの世俗的労働から解放され,パーリ聖典に書かれた戒律を厳守して,修行に専心する僧侶によって形成される出家者教団である。在家者,すなわち一般仏教徒の宗教行動のすべては,サンガの維持・発展に寄与することが,最高の功徳行であるという信仰を中心にして展開する。…
…遁世した人のことを,〈とんせいしゃ〉〈とんぜいじゃ〉といい,中世には多くの遁世者が現れ,宗教者としてだけでなく,文学,芸能の面でも活動した。仏教のたてまえからすれば,出家して寺院に入ることは,遁世することであった。しかし,仏教を高度な外来文化を総合するものとして受容した日本では,寺院と僧侶は国家や貴族社会からさまざまな規制を加えられたために,寺院は第二の世俗というに近く,出家することは遁世にならなかった。…
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