日本大百科全書(ニッポニカ) 「全体主義経済学」の意味・わかりやすい解説
全体主義経済学
ぜんたいしゅぎけいざいがく
totalitarian political economy
今日、全体主義というとき、ナチス・ドイツ、イタリアなどのファシズム体制をさす場合と、主としてスターリン主義下のソビエト社会主義をいう場合とがあるが、ここでは前者を意味し、全体主義経済学とはファシズム体制の経済秩序形成原理として利用された経済学をさす。そこでまずあげられるのは、O・シュパンである。彼は、イギリス古典学派以来の経済学が個人的自由に基づく市場原理を中心に展開されていたのが、自由競争の衰退とともに色あせてきたのに対応して、超個人的な全体が個体に優先し、各個体は有機体としての全体の部分であり、全体こそが無限の生命の具現者であるという全体主義経済観によって経済学体系をつくった。ついでF・ゴットル・オットリリエンフェルトも、シュパンと同様に、没価値的である科学的認識の限界を超えて、共同体=全体存続のためという実践的要求に基づいて理論・歴史・政策の有機的統合を強調し、ナチスやファシズムに利用されることとなった。彼らは、第二次世界大戦中の日本の皇道経済学や右翼経済学にも影響を与えた。
[一杉哲也]