…歯磨売にはこうした振売だけでなく,床見世もあってネズミの曲芸などで人集めをして売ったほか,入れ歯も扱っていたらしい。〈本郷も兼康(かねやす)までは江戸の内〉といわれた兼康は,江戸本郷にあって,〈乳香散〉という歯磨きを売ったことで知られる。 江戸時代には,歯磨粉の原料として房州の砂が有名であり,《中陵漫録》には〈歯磨の沙(すな)ハ,房州より出る故に房州沙と云ふ,この沙水飛(すいひ)して竜脳丁子を加へ,諸国各々其の土地より白沙を製して売る,薩州にて山下の白沙を売る,備中にてハ山中の白石を粉して製す,何れも房州の沙におよばず,又米糠(もみぬか)を焼きて用ふべし,若葉の葉を焼きて焼きて粉して用ふる,竜脳,丁子,白檀にて香気を付ける,余諸国に於て用ひ試む,東都のごときハなし〉とある。…
…肴店には1725年(享保10)日本橋の有名な呉服商伊豆蔵屋(いずくらや)吉右衛門が支店を開いて人気を集めたため,肴店は伊豆蔵横町とも呼ばれた。同じころ,3丁目には口中医師の兼康(かねやす)祐悦が薬種・小間物屋を開き,乳香散という歯磨粉を売り出したため,兼康横町という町名が生じた。このほか4丁目にも36年(元文1)笹屋という薬種屋が進出して光明膏という目薬を売り広め,これまた繁盛した。…
※「兼康」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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