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医療被曝 いりょうひばく

知恵蔵の解説

医療被曝

診断や治療のために放射線にさらされること。患者本人だけでなく、付き添いや介助にあたる人の負うリスクも同じく医療被曝(ひばく)と定義されている。
放射線は現在、診断、検査のみならず治療の場面でも広く用いられている。
診断においては、病気をスクリーニングするための健康診断で、しばしば撮影されるX(エックス)線画像が代表的。被曝線量は、機器や設定などに大きく左右されるものの、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)等のデータによれば、胸部のX線単純撮影が1回当たり0.05ミリシーベルト(mSv)程度である。従来、症状のある患者に対してだけに実施されていたX線CT(コンピューター断層撮影)やPET(ポジトロン断層撮影)が、近年は人間ドックなどでも行われている。X線CTはX線を多方向から照射するため、X線単純撮影より被曝線量が上がり、胸部で6.9mSv/回とされている。PETは、半減期が数十分から数日程度と短い放射性物質(トレーサー)を体内に注入し、そこから放射されるγ(ガンマ)線や中性子線を計測するもので、トレーサーの種類や機械の設定によって被曝線量には幅があるものの、最大で10mSv/回である。
放射線は分裂の盛んな細胞に強い影響を与えることから、たとえ検査であっても胎児や乳幼児、小児への適用には慎重さが求められる。また同じ理由で、男女を問わず、生殖器への照射もなるべく線量を低く抑える必要がある。ちなみに、超音波や(N)MRI(核磁気共鳴画像法)は、放射線を使わない。
放射線を用いた治療では、腫瘍(しゅよう)などに照射し、退縮を図る方法がよく知られている。この場合の単位をグレイ(Gy)といい、体内に吸収される放射線エネルギーの量を表す(シーベルトとグレイは身体の部位や照射する放射線の種類によって係数が違うが、X線の場合なら概算で1シーベルト≒1グレイが目安となる)。がんには約1カ月間で数回に分けて合計10~50グレイを照射するのが一般的である。ただ、約1グレイでリンパ球減少(ORISE;Oak Ridge Institute for Science and Educationによる)、2グレイ以上で約50%の人に3分の2以上の頭髪の脱毛が見られる(放射線影響研究所による)など、被曝による副作用は避けられない。放射線源の選択や機器のセッティングを工夫して被曝量を低減するのが重要な課題である。身体の深部のがんに対しては、X線、γ線、中性子線よりも深いところへ届き、患部周辺に与える損傷の少ない重粒子線が用いられるケースもある。
また1990年代から、X線で患部を造影しながら検査や治療を行うIVR(Interventional Radiology)が広く行われるようになった。IVRの一種である心臓のカテーテル検査1回の被曝量は、およそ0.75~2.0グレイである。
放射線を利用する医療は、細胞や遺伝子が損傷するリスクを伴う。リスクと有効性のバランスはケースごとに違うので、医師が個別に検討・判断するべきとされ、ICRP(国際放射線防護委員会)の定める、公衆の年間被曝線量限度(1.0ミリシーベルト)には、医療を通じて浴びる線量は含まれていない。

(石川れい子  ライター / 2011年)

出典|(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について | 情報

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