デジタル大辞泉
「治療」の意味・読み・例文・類語
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ち‐りょう‥レウ【治療】
- 〘 名詞 〙 ( 「ぢりょう」とも ) 病気やけがをなおすこと。病気の治癒、症状の軽快のために行なう医療行為。療治。
- [初出の実例]「薬もて治療せ令むるに、終に直らず」(出典:日本霊異記(810‐824)上)
- 「Jiriyo ヂレウ 治療」(出典:和英語林集成(初版)(1867))
- 「戦地から後送せられて来る負傷者を治療(チレウ)した」(出典:渋江抽斎(1916)〈森鴎外〉八二)
- [その他の文献]〔北斉書‐清河王岳伝〕
治療の語誌
( 1 )「治療」と「療治」はともに古くから用いられてきたが、近世中期後半頃から「治療」が多用されるようになる。これは中国近世に「傷寒論」など医学書に「治療」が多用されていることと関連している。
( 2 )杉田玄白「蘭東事始‐上」や渡辺崋山「外国事情書」に「療治」が使われており、儒医が好んで「治療」を用いたのに対し、西洋医学を学んだ人は「療治」を用いる傾向が指摘できる。「和蘭字彙」は対訳に「療治」をあてており、「治療」は見られない。
( 3 )「和英語林集成(初版)」には挙例のほか「Riyōji レウヂ 療治」の形でも出ているが、「ヂレウ」は文章語とされている。
( 4 )呉音読みのヂリャウが古くから行なわれていたが、明治期には漢音読みのチリャウが優勢になる。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
治療(糖尿病)
(3)治療
a.基本方針
糖尿病治療の目標は,健常者と同様な社会生活を送ることができるよう,合併症の発症,あるいはすでに存在する合併症の進展阻止および遅延にある.高血糖に基づく自覚症状(口渇や倦怠感など)の改善のみを目標としてはならない.網膜症などの糖尿病合併症の発症進展防止には,血糖値は正常に近いほどよいことが判明しており,そのような長期的予後からみた血糖コントロールの評価の目安を表13-2-10にあげた.おおまかにいえば,血糖コントロールの1つの指標であるHbA1cを7.0%以下(若い患者では6.5%以下)とすべきである.高血圧や脂質異常症は大血管症(動脈硬化)ばかりでなく,最小血管症についても,少なくともその一部の進展を促進する.したがって,血糖値ばかりでなく,糖尿病に合併しやすいこれらの疾患(病態)の是正も行わねばならない.後述の糖尿病昏睡【⇨13-2-3)】のような緊急時を除けば,患者の10年後20年後を見すえた治療が必要である.
以下に,具体的な治療法としての,食事,運動,経口糖尿病薬,非経口薬による治療とその意義について述べる.なお,項目としてはあげないが,患者教育が重要であり,治療の根幹といってもよい.糖尿病とはどのような疾患か,なぜ血糖値をよい値に保つことが必要なのか,なぜ食事療法や運動療法が重要なのかを患者が理解しなければ,長期にわたる良好な治療は達成しがたい.
b.食事療法
ⅰ)意義
食事療法とは身体が必要とする最小限のカロリーを摂取することである.では,なぜ糖尿病ではこのような食事療法が必要なのだろうか.病態生理で述べられたように,糖尿病患者の大部分を占める2型糖尿病では,インスリン分泌不全(分泌反応の遅延と低下)とインスリン抵抗性(作用低下)という障害が存在する.しかし,この障害を完全に正常化する薬物はない.したがって,必要以上に摂食すれば,インスリン分泌不全のために血糖値はさらに上昇し,遅延しながらもある程度は分泌されているインスリン(軽症の糖尿病患者では食後のインスリン分泌反応は遅延しているが,1日全体でみたインスリン分泌量は正常者よりむしろ多いくらいである)によって余剰なエネルギーは脂肪として蓄積される.蓄積した脂肪からはインスリン作用を障害するサイトカインなどが分泌され,また血中遊離脂肪酸も上昇するために,インスリン抵抗性が増悪し,血糖値はさらに上昇することとなる.また,脂質異常症や高血圧を招来しやすくなる.そして,血糖値の上昇はインスリン分泌不全とインスリン抵抗性をさらに悪化させる(糖毒性). 正常者では多量に摂食してもインスリン分泌不全がないので,さらにインスリン分泌を増加させて対応し,血糖値が上昇することはない.余剰なエネルギーは脂肪として蓄積され,インスリン抵抗性は増すが,さらなるインスリン分泌増加で対応できる.すなわち,肥満はきたすが,血糖値の上昇は生じないのである.
1型糖尿病でインスリン療法を受けている患者でも食事療法は必要である.過量の食事にインスリンの増量で対応すれば,当面の血糖値の改善は達成できても肥満をきたし,長期罹病に伴う合併症の出現をきたしやすいからである.
すなわち,食事療法の意義は,膵β細胞への負担を軽減し,反応性を回復させ,インスリン作用組織におけるインスリン抵抗性を改善することにある.
ⅱ)食事療法の実際
1)総カロリーの指示:
必要量のカロリーは,患者の年齢,身長,体重,運動量,肥満度,合併症の有無などによって異なるが,大筋は標準体重と生活活動強度によって決められる.標準体重の求め方の1つとして,BMI(body mass index)=体重(kg)/身長(m)2の値が22を標準体重とすることが多い.
標準体重1 kgあたりの1日総エネルギー必要量の目安は以下のようである. 安静にしている人 20~25 kcal 軽労働の人 25~30 kcal 中労働の人 30~35 kcal 重労働の人 35~45 kcal 発育期にある子どもでは,必要エネルギーははるかに多く,妊婦では標準体重×30 kcalに加え,妊娠前期では150 kcal,妊娠後期では350 kcalが必要である.肥満した糖尿病患者では,体重減少を早くはかるため,上記よりもさらに少なくすることもある.
2)適正な栄養素の配分と食事配分:
3大栄養素のエネルギー比としては,蛋白質15~20%,脂質20~30%,糖質55~60%が目安となる.蛋白質の割合は,成長期の子どもを除き,腎症の進展防止のためには多すぎない方がよいと考えられて おり,通常は体重 kgあたり1.0~1.2 gとする.脂質では,動物性脂肪の摂取を控え,多価不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸の比を1.5くらいにする.また,コレステロールの多い食品も控えた方がよい.糖質については,糖尿病だから糖質のみを制限すればよいと考える患者は少なくないが,これは誤りである.ただ,砂糖のような単純糖質は同じカロリーでも食後の高い血糖上昇を引き起こす(血糖指数(glycemic index)が高い)ので,複合糖質の形で摂取すべきである.同じ理由で,種々の清涼飲料水にも注意しなければならない.
塩分摂取は直接糖代謝にかかわるものではないが,糖尿病では高血圧の合併頻度が高いこと,高血圧は糖尿病合併症の進展を促進することなどから,塩分摂取は1日10 g以下,すでに高血圧を有する患者では6 g以下とする.食事配分は,1回の食事に偏らないよう,むしろ分散して摂取し,よくかんでゆっくり食べることが望ましい.
3)腎症を有する糖尿病:
糖尿病性腎症の進展防止に,早期から蛋白質の摂取制限を行うことの有効性が示されてきている.蛋白尿が認められる段階では,1.0 g/kg体重以下に蛋白制限を行う.腎不全の段階になると,蛋白摂取をさらに制限する必要があるが,体蛋白の異化を避けるため総エネルギーをむしろ増量する.この際には,糖質を増加し,インスリンの開始ないし増量で対応する.
4)インスリン依存状態の食事療法:
インスリン依存状態では,絶対的に不足しているインスリンを1日何回もの注射で機械的に補っている.すなわち,発揮されるインスリンの作用には融通がきかない.したがって,食事はこのインスリンの作用にあわせて規則的にとることが必要である.低血糖を避けるために,補食など食事の分配や運動前の調整が必要になることも多い.
c.運動療法
ⅰ)意義
運動療法の糖尿病治療における意義は,運動時のエネルギー消費のみにあるのではない.最大の目的は糖尿病患者の多くで認められるインスリン抵抗性【⇨13-4-2)-(6)】の改善であり,これにより血糖値が改善し,インスリン抵抗性がかかわると考えられる脂質異常症や高血圧,ひいては動脈硬化の進展防止に寄与する.運動によるエネルギー消費の増加(表13-2-11)は肥満の改善,ひいてはインスリン抵抗性の改善に寄与する.しかし,たとえ体重減少が認められなくても運動はインスリン抵抗性を改善する.これには,運動した骨格筋ではグルコースの取り込み能が上昇し糖代謝が改善することが大きく寄与しており,このインスリン抵抗性改善効果は運動後1~2日持続する.週に少なくとも3回は運動するようにとの根拠はここにある.また,血中遊離脂肪酸を効率よく利用し,肥満を解消するために,20分以上持続する速歩やジョギングのような有酸素運動がよいとされる.運動療法の効果としては,インスリン抵抗性改善による血糖値の改善のほか,血中コレステロールの低下,中性脂肪の低下,HDL-コレステロールの上昇,体脂肪の減少,高血圧症の改善,心肺機能の改善,骨量減少防止,ストレス解消があげられる.
ⅱ)運動療法の実際
運動強度としては最大酸素摂取量(VO2max)40~60%の中等度運動を,1回20~30分,できるかぎり毎日,少なくとも週3回は行うように指導する.しかし,各人でVO2maxを測定することは実際的でないので,脈拍数で代用していることが多い.VO2max50%は,40~50歳代なら脈拍110~120/分程度の運動に相当することが多い.一般には,いつでも,どこでも,1人でも行える運動として,歩行が勧められる.指導の一法として万歩計を用いることも行われる.1日3000歩くらいのことが多いので,当初1日5000歩を目標にスタートし,次第に1日1万歩まで増加するよう患者指導を行う.要は,運動の習慣をつけさせることが重要である.主目的はインスリン抵抗性の改善であるので,原則的にはいつ運動してもよい.しかし,食後に運動すると食後の血糖上昇を抑えることにも寄与できるので,さらに望ましい.特にインスリン治療者では低血糖の防止のために,運動開始は食後1~2時間が勧められる.
ⅲ)運動療法の禁忌
血糖コントロールがきわめて悪くケトーシスをきたしている場合,眼底出血の可能性のある増殖性網膜症や進行した腎症を有する例では禁忌である.また,糖尿病では心血管系の障害を有する例が多いので,運動療法が可能かを事前にチェックしておくことが必要である.
d.経口糖尿病薬療法
ⅰ)意義
2型糖尿病が適応である.食事療法,運動療法を行っても,よい血糖値コントロール(表13-2-10参照)が得られない場合に投与される.インスリン分泌促進薬(おもにスルホニル尿素薬),α-グルコシダーゼ阻害薬,ビグアナイド薬,チアゾリジン系のインスリン抵抗性改善薬,ジペプチジルペプチターゼ(dipeptidyl peptidase-4:DPP-4)阻害薬がある(表13-2-12).そのおもな作用機構や血糖降下作用の強さに基づいて使い分けることが必要である.
ⅱ)経口糖尿病薬の種類と特徴
1)インスリン分泌促進薬:
a)スルホニル尿素薬(SU薬): ⅰ)作用機構:膵β細胞膜に存在するスルホニル尿素薬受容体に結合してインスリン分泌を増加させるのがおもな作用であり,これによって血糖値を低下させる.血糖降下作用は一般には経口糖尿病薬のなかで最も強力である. ⅱ)禁忌:作用機構から明らかなように,1型糖尿病で膵β細胞がほとんど消失している場合や膵全摘後の糖尿病には効果がない.ほかの禁忌としては,大きな外科手術時,重症の感染症,副腎皮質ホルモン投与時のほか,重度の肝・腎障害などがあげられる(後述のインスリン療法の項と表13-2-13を参照).ストレス,感染,副腎皮質ホルモン投与時には,インスリン抵抗性のためにインスリン需要が大きく増大するが,SU薬によるインスリン分泌刺激では十分にカバーができず,また,機敏な血糖調節ができないからである.このような場合にはインスリン治療が適応となる.妊婦では胎盤を通過して胎児の膵に作用し,胎児の高インスリン血症を招来し,催奇性についても不明の点があるので禁忌である. ⅲ)投与法の実際:作用の弱いトルブタミド,ついでグリクラジド,グリメピリド,作用が最も強いグリベンクラミドなどがある.作用の弱い種類を1日朝1錠から始め,2~8週間くらいで効果をみて増量するのが,低血糖を生ずる危険が少ない安全な投与法である.
b)非スルホニル尿素薬:グリニド薬ともよばれ,食前に内服することによりおもに食後の高血糖を改善する.スルホニル尿素薬受容体に結合して作用を発揮する点では従来のスルホニル尿素薬とほぼ同様であるが,代謝が早く,内服するたびに迅速なインスリン分泌を惹起する.比較的軽症の2型糖尿病患者がよい適応である.
2)α-グルコシダーゼ阻害薬:
ⅰ)作用機構:小腸に存在する二糖類分解酵素のα-グルコシダーゼを阻害する薬物である.食前に内服することにより食物中の糖類の小腸での分解・吸収を遅らせ,よって食後の血糖上昇を抑えるのがおもな効果である.比較的軽症の2型糖尿病では食後のインスリン分泌反応が遅延しているが,これに合致させるべく糖類の吸収を遅らせている薬物とみてもよい. ⅱ)禁忌と副作用:消化管通過障害や腸管運動が非常に低下した患者(たとえば,進行した糖尿病性自律神経障害)では禁忌である.なお,分解が抑制された糖類が腸管で発酵し,腹部膨満,放屁,下痢などをきたしうる. ⅲ)投与法の実際:食前に内服しなければ効果は期待できない.少ない含有量の錠剤を1日3回毎食前1錠から始め,効果と消化器症状をみながら増量するのが一般的である.なお,単独投与で低血糖をきたすことはないが,併用療法ではきたしうる.この場合には砂糖(グルコースとフルクトースからなる二糖類)ではなくグルコースの摂取が必要である.
3)インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン系薬):
ⅰ)作用機構:作用機構は必ずしも明らかでないが,肥満や運動不足などで生じるインスリン抵抗性を改善して血糖値を低下させる.肥満した2型糖尿病が最もよい適応である. ⅱ)禁忌と副作用:軽度の貧血のほか,浮腫が出現することがある.心不全や膀胱癌の患者では禁忌である.肝機能検査も行うべきである.
4)ビグアナイド薬:
ⅰ)作用機構:インスリン作用を増強し,肥満をきたしにくい.したがって,肥満を伴う2型糖尿病が最もよい適応になる.おもな作用は肝からの糖放出の抑制と考えられている.
ⅱ)禁忌と副作用:重篤な副作用として乳酸アシドーシスがあり,肝・腎・心・肺機能低下が高度の場合には投与は禁忌である.
5)DPP-4阻害薬:
ⅰ)作用機構:消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド(GLP-1)などのインクレチンを分解する酵素であるDPP-4を阻害して,グルコース存在下でのインスリン分泌促進などのインクレチン作用を増強するとされている. ⅱ)副作用:理論的には低血糖時には働かないはずだが,SU薬との併用で低血糖症が生じることがある.特に高齢者で注意. なお,これらの経口糖尿病薬も含めた薬剤の選択について,図13-2-21にまとめた.図の血糖値はあくまで目安であり,患者の年齢,合併症の有無,生活環境などにより変わりうる.2型糖尿病患者では,食事運動療法が1~2カ月行われても,なお十分な血糖コントロールが得られない場合に薬物療法が行われる.比較的軽症の患者では,α-グルコシダーゼ阻害薬,速効型インスリン分泌促進薬あるいはDPP-4阻害薬を始める.肥満の強い患者ではビグアナイド薬を投与するのも1つの方法である.食事運動療法を行っても中等症以上の血糖値(目安として空腹時血糖値150 mg/dL以上)の場合には,スルホニル尿素薬を開始する.非専門医は低血糖の危険を避けるために作用の弱い種類を1錠から開始するのがよい.増量しても十分な血糖コントロールが得られない場合に,併用療法を考慮する.血糖コントロールが非常に悪い場合は,インスリン治療の適応である.
e.非経口薬療法
おもにインスリンが使われる.
インスリン療法
ⅰ)意義と適応
糖尿病治療の実際においては,インスリン治療が必要か否かの判断は重要である.1型糖尿病であってインスリン分泌能が枯渇した病態では,インスリン療法なくしてはケトーシスから昏睡に至るため,絶対的適応といえる.一方,よりよい血糖コントロールのためにインスリンが使われることもある.上記の経口糖尿病薬でコントロールできない2型糖尿病の場合や,SU薬が次第に有効でなくなった場合(SU薬の二次無効)にもインスリンを開始する.このようなインスリン療法の適応について,表13-2-13にあげた.なお,グルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase:GAD)抗体陽性など1型と考えられる患者では,インスリン非依存状態でもインスリンで治療した方がインスリン依存状態への進行を遅らせる(すなわち,膵β細胞の破壊を遅らせる)ことができるとの報告がある.
ⅱ)インスリン製剤の種類と特徴
現在では遺伝子組換えにより製造されたヒトインスリンが使われている.作用時間から,超速効型(皮下注射後1時間でピークに達し,作用は3~5時間持続する),速効型(皮下注射後2~5時間でピークに達し,作用持続は6~8時間),中間型(6~12時間でピーク,持続は18~24時間),混合型(速効型と中間型を種々の比率で混合し,両者の性質をあわせもつ),持続型(中間型より作用持続時間が少し長く,持効型ともいう)に分類される(表13-2-14).1 mL 100単位の製剤に統一された.
多くのインスリン製剤では,その皮下注射は食前30分に行うことが望ましい.これは,製剤中ではインスリンは単量体では存在せず,六量体を形成しているためである.皮下で順次二量体,さらに単量体となってから吸収されるので,作用開始までに皮下注射後30分ほどを要するのである. なお,インスリン分子を改変したインスリンアナログが最近用いられるようになった.1つは,六量体を形成せず皮下注射後すぐに作用を発揮するため,食直前の皮下注射でよいもので,超速効型インスリンとよばれる.また,皮下で緩徐に吸収されるインスリンアナログは明らかな作用ピークがなく,持続型(持効型)に分類される(表13-2-14).
ⅲ)インスリン療法の基本的考え方と実際
健常者のインスリン分泌は,食事とは関係なく持続的に分泌されている基礎分泌と食事などの際に分泌される追加分泌の2つに大別される【⇨13-2-1)】.1型糖尿病でインスリン依存状態に至った病態では両者とも欠如しているため,基礎分泌を中間型インスリンあるいは持続型インスリンで補い,追加分泌は超速効型ないしは速効型インスリンで補うことが必須である.このような頻回注射によって厳格な血糖コントロールの達成を目標とするのを,強化インスリン療法という.一方,2型糖尿病では病初期には基礎分泌は保たれており追加分泌の障害が主であるが,インスリン治療を必要とする病期では,基礎分泌もかなり障害されている.したがって,病初期には食前3回の速効型,病期が進めばインスリン依存型と同様の頻回注射法をとっても悪くはない.しかし,簡便さと患者自身のインスリン分泌にある程度の期待ができることを考慮して,インスリン値のいわば「底上げ」を目的として,中間型あるいは混合型インスリンを朝夕2回(軽症なら朝1回)していることが多い.以上のようなインスリン投与法によるインスリン効果を模式的に図で示した(図13-2-22). 強化インスリン療法よりさらに生理的インスリン分泌パターン【⇨13-2-1)】に近づける治療法として,持続皮下インスリン注入(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)がある.これは,小型ポンプを用いて,腹壁に留置した翼状針から基礎分泌に相当するインスリンを皮下に持続的に注入し,毎食前にはポンプの速度を変えて追加分泌に相当するインスリンを注入する方法である.1型糖尿病のなかでも血糖コントロールが困難な不安定型糖尿病や,妊娠前や妊娠中で厳格な血糖コントロールが必要とされる例が対象となる.1型糖尿病でインスリン分泌が枯渇している例では,ポンプの故障は糖尿病昏睡に直結する.したがって,十分な自己管理のできる患者に適用される.
ⅳ)血糖自己測定
簡易血糖測定システムの進歩もあり,血糖値を患者自身が測定して治療にフィードバックすることが普及してきた.いつでもどこでも測定できることから,日常生活に密着した血糖値の日内変動を知ることができる.インスリン治療をしている患者が最もよい適応であり保険診療上でも認められているが,それ以外の患者でも食事や運動など,自己管理に役立つことが多い.
ⅴ)シックデイ(sick day)
シックデイとは,文字どおり,糖尿病患者,特にインスリン治療を必要としている患者が,感染症や消化器疾患などの急性疾患に罹患したときを指す.わざわざこのような名でよぶのは,このようなときにインスリン注射を含めた対処法を患者に教育しておくことが必要だからである.インスリン分泌が枯渇した患者が,食欲がなかったのでインスリン注射を自己判断で中止し,糖尿病昏睡で緊急入院することは依然として多い.シックデイにはインスリン抵抗性が増加,すなわち,インスリン必要量は増加していること,追加分泌ばかりでなく基礎インスリン分泌【⇨13-2-1)】まで枯渇している患者では食事をしなくてもインスリン注射は生存に必須であることを教えなくてはならない.その他,血糖自己測定とその値に基づくインスリン量の変更,どのような場合に医療機関へ連絡しなければならないかを教育しておくことが必要である.
インクレチン受容体作動薬
インクレチンの作用を増強するためのアナログ製剤であり,1型糖尿病では禁忌である.[岡 芳知]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
普及版 字通
「治療」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
治療
ちりょう
(medical)treatment; healing
病気の癒 (いや) しにかかわる行為一般のこと。特定の病因論に対応する形で治療体系も発達している。近代医療においては,身体の異常を引き起こしていると考えられるウイルスや細胞の除去・抑制が治療とされる。一方,伝統社会においては,病気の原因を自然界からの働きかけ,祖霊の怒り,近親相姦 (そうかん) ,憑依 (ひょうい) 霊などに求めるため,治療も儀礼の形態をとる。それゆえ何をもって病気が癒された・治ったとするかは文化的な病気観・健康観による。当該社会に内在するメタファーや伝統社会の呪医が使用する薬草などにも実際の治療効果が認められている。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の治療の言及
【医療】より
…病気という名前で呼ばれる個人的状態に対し,それを回復させるか,あるいは悪化を阻止しようとしてとられる行為をいう。その内容は,病気を診断し治療することであるが,実施にあたるのは近代的社会では法律的にその資格を独占的に与えられている医師が中心になるところから,医師の行う行為一般に拡大されることもある。たとえば,美容上の目的をもって行われる手術,避妊処置,人工妊娠中絶,人工受精,体外受精,性転換手術や性ホルモン注射療法などは,病気の回復を目的とはしないが,それらを実施するのに最も安全で確実な技術を提供できると期待されるし,また施設・器材も病気の医療のためのものと共用できることなどから,医師にそれらの行為を限定し,医療の定義のなかに入れられる。…
※「治療」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」