…たとえば,別荘の売買契約において,契約締結の直前に別荘が焼失していたのに,売主がそれをよく確かめずに契約を締結したとする。この場合その売買契約は,原始的不能を目的とする契約となって効力を生ぜず,したがって,買主が別荘を下見に行くために支出した旅費等の費用(損害)は,本来は契約責任によっては売主に追及できないことになるが,その場合でも賠償させようという法理である。ドイツ民法制定前の19世紀後半に,イェーリングによって提唱され,ドイツ民法には,この法理を前提とした規定がいくつか見られる(たとえば,ドイツ民法307条によれば,上記の例の買主は原始的不能を知りまたは知りうべかりし場合を除き,契約が有効だと信じたことによる損害の賠償を請求できるのが原則である)。…
…たとえば,甲がその所有する建物を乙に売る契約をしたところ,数日前にすでにその建物が落雷によって焼失してしまっていたような場合には,乙の甲に対する建物の所有権の移転を内容とする債権は成立しえず,売買契約も無効となる。このように,はじめから実現不能なことを内容とするとき,給付は原始的不能であって,債権は成立しえないといわれる。これに反して,債権成立後に不能を生じたとき,たとえば,前例において契約成立後に建物が,甲の失火や落雷によって焼失したような場合には(後発的不能),債権はいったん成立したことになり,甲の債務不履行(履行不能)により損害賠償請求権に転化するか(失火の場合),危険負担(落雷の場合)の問題を生ぜしめるかにすぎない。…
※「原始的不能」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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