合成ダイヤモンド(読み)ゴウセイダイヤモンド(英語表記)synthetic diamond

デジタル大辞泉 「合成ダイヤモンド」の意味・読み・例文・類語

ごうせい‐ダイヤモンド〔ガフセイ‐〕【合成ダイヤモンド】

人工ダイヤモンド

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

知恵蔵 「合成ダイヤモンド」の解説

合成ダイヤモンド

合成ダイヤモンドは、化学組成結晶構造、物性のいずれも天然のダイヤモンドと同等で、人工的に作られた物質である。天然ダイヤモンドを模倣してガラスやプラスチックなどで作られた模造ダイヤモンドや、人造石であるキュービックジルコニアは、化学組成、結晶構造、物理的特性がいずれも天然ダイヤモンドとは異なる。
ダイヤモンドは炭素の結晶で、単一結晶のものと多数の結晶から成るものがある。天然ダイヤモンドは、地下約150~200㎞の上部マントルおよびそれより深いマントル遷移層や下部マントルにおいても生成され、マグマ噴出にともなって地表近くに現れる。結晶化する際に周囲にある他の鉱物の結晶を包有物として取り込むと、その種類によって色などが異なる。上部マントルは約5万~7万気圧の高圧で、1000~1500℃程度までの温度の領域でダイヤモンドが生成するとされる。無色透明単結晶のものは宝石として利用され、多結晶のものは結晶面で割れにくい性質を生かして産業的に利用されている。
ダイヤモンドの合成は、1954年に初めて成功した。ダイヤモンドの硬さは研磨用に、熱伝導率と電気伝導率の特性は半導体などのヒートシンク(熱緩衝)に、光学的な特性はレーザー光学やテレコミュニケーションにと、ダイヤモンドがもつ特性を生かした産業応用目的で合成ダイヤモンドが生産され、今日まで使われている。また地球物理学の学術分野では、惑星深部の構造や超高圧高温下での物性の研究に合成ダイヤモンドが利用されてきた。
最も初期に開発された合成方法は、天然ダイヤモンドが生成する地球内部の条件を模した高温高圧(HPHT:high-pressure, high temperature growth)法で、5~6万気圧、1500K以上(摂氏0度=273.16K)の合成条件を用いる。60年代にはより低い温度と圧力の下で行われる化学蒸着CVD:chemical vapor deposition growth)法による多結晶ダイヤモンドの合成が成功し、現在この2種類がダイヤモンドの製造の主流となっている。開発初期には、合成速度が1時間に数マイクロメートル(1マイクロメートル=0.001ミリメートル)から数百マイクロメートルと遅く、ごく薄い膜状の不均一なダイヤモンドしか作ることができなかったが、製造方法の改良により合成速度と品質が向上し、70年には、ジェネラル・エレクトリック社が、宝石レベルの品質とサイズの合成ダイヤモンドを世界で初めて製造した。80年代には多くの宝石メーカーが合成ダイヤモンド市場に参入するまでに宝石用合成ダイヤモンドの製造技術が向上した。
学術分野においては、米国ワシントンにあるカーネギー研究所地球物理学研究室が超低圧真空下での化学蒸着法による単結晶ダイヤモンド製造法を開発し、従来よりも速く、大きな結晶を得られるようになった。また日本の松山市にある愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターでは、2003年、15万気圧2600℃の高圧高温下で、天然ダイヤモンドよりも硬い、世界最硬のナノ多結晶ダイヤモンドNPD)を合成することに成功して、「ヒメダイヤ」と命名し、17年には真球のNPDをつくることにも成功した。これらの改良された合成ダイヤモンド製造法は従来の産業応用だけでなく、惑星や太陽系の形成に関する研究や、地球深部の物理化学物性の研究などにおける新たな研究手法となり、また合成ダイヤモンドを使った電子センサーやコンピュータなどの開発も見込まれている。
今日の合成ダイヤモンドは、紫外線・可視光の吸収スペクトルなど光学的な特性の面でも高品質の単結晶天然ダイヤモンドと同程度で、宝石として加工された際、従来の鑑定機器では天然ダイヤモンドと判別できないほどの品質のものがある。天然ダイヤモンドと区別がつかない合成ダイヤモンドによって市場が混乱するといった懸念がある一方、ダイヤモンドの購買層を広げるといった見方や、これまで天然ダイヤモンドの採掘や流通には未成年者労働、環境破壊、産地に対する搾取、さらには戦争の原因となるなどの問題があることから、倫理的な立場で天然ダイヤモンドに反対し、合成ダイヤモンドを身に着けようと訴えるエシカル消費の運動も起こっている。18年5月、南アフリカ創業で天然ダイヤモンドの世界的な製造・流通を行い、価格に対する統制力をもつデビアス社が、合成ダイヤモンドを専門にするブランド「Lightbox(ライトボックス)」の立ち上げを発表した。同年10月には、京都の宝飾メーカー今与が「SHINCA(シンカ)」のブランド名で合成ダイヤモンドの販売を開始し、宝石としての流通・販売が国内外で進んでいる。

(葛西奈津子 フリーランスライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

化学辞典 第2版 「合成ダイヤモンド」の解説

合成ダイヤモンド
ゴウセイダイヤモンド
synthetic diamond

人工合成されたダイヤモンド.1955年,G.E.社によって130 kbar,3500 ℃ の超高圧高温化ではじめて合成された.その後,Fe,Co,Niなどの触媒を用いることによって,45 kbar,1150 ℃ でも合成できるようになった.このほかに放電や爆発による衝撃波を利用する方法,炭化水素の気相熱分解法も行われている.得られる結晶は,多くは1 μm から0.5 mm 程度までで,褐色,黒色などに着色している.研磨剤として工業的に生産されている.宝石用としては,1970年に透明な数カラットの結晶が作成されたという.天然にはきわめてまれである,BやAlをドープしたp型半導体ダイヤモンドが合成される.これは新しい電子材料として開発されつつある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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