翻訳|shock wave
流体中を伝搬して,圧力,密度,温度の不連続的上昇を引き起こす波。超音速の気流中におかれた物体または逆に静止流体中を超音速で進行する物体では,遠くまで広がる定在波として衝撃波が見られる。
密度の可変な流体(縮む流体,圧縮性流体)中に生ずる圧力や密度の微小変化は,静止流体中を音波として伝わっていくが,振幅が有限になると,圧力の高い部分の伝搬速度が圧力の低い部分の伝搬速度より大きいので,圧力の高い部分が低い部分に追いついて波の急峻化が起こる。ただしそこでは粘性や熱伝導などの散逸が大きくなって急峻化が妨げられ,結局,追いつきによる非線形効果と散逸効果とがつりあった状態で急峻な波面が形成され,音速より速い速度で定常伝搬することになる。
とくに断熱指数γの理想気体では,衝撃波の前方での圧力p1,密度ρ1,温度T1が,後方ではそれぞれp2,ρ2,T2になるものとすれば,衝撃波の前後での質量,運動量,エネルギーの保存則からランキン=ユゴニオの関係式,
が得られる。ここでξ=p2/p1は衝撃波の強さと呼ばれ,v1,v2はそれぞれ衝撃波に相対的に入り出ていく流れの(面に垂直な)速度である。また前方での音速c1で衝撃波の伝搬速度v1を割った衝撃波のマッハ数Mは,で与えられる。ξの値は1から無限大まで変わり(すなわちつねに音速以上である),ξ~1はM=1,ρ2/ρ1~1で音波に相当し,ξ→∞では温度,圧力,Mも無限大となるが,ρ2/ρ1=v1/v2は(γ+1)/(γ-1)の有限値をとる。もっとも,実在の気体においてはこのように強い衝撃波では高温のために分子の励起,解離,電離が起こるし,放射の影響も無視できなくなる。また燃焼,爆発などの反応が起こる場合はその影響(衝撃波を伴う爆発的燃焼は爆ごう,衝撃波は爆ごう波といい,圧力の急上昇とエネルギー発生が伴って起こる),また,電離した気体に磁場がかかっているような場合は電磁流体力学的効果がきいてくる。このほか,衝撃波の内部構造を論ずるには,粘性,熱伝導の効果を,強い衝撃波では非平衡効果,とくに実在気体では上に述べた効果の緩和現象を考慮する必要がある。
波面に平行な速度成分をつけ加えてやると衝撃波を通過することによって,速度の方向が変わる斜めの衝撃波oblique shock waveが得られる。超音速流中におかれたくさびの尖端から上下にのびる定在衝撃波がこれである。物体の頂角が大きい場合には,前方に離れ曲がった衝撃波が現れ,衝撃波の後ろの流れは渦度をもちエントロピーが一様でなくなる。物体のまわりの流れが音速より遅くても音速に近ければ,物体面の近くには超音速の領域が現れ,特殊な場合を除いて衝撃波が出現する。このときにはその高さも有限で時間的に変動することが多い。
超音速で進行する物体では前部の衝撃波によって圧縮された空気が膨張の後,再び後端の衝撃波で圧縮されるので,地面では,反射によって2倍に強められた圧力分布をもつN形のN波が生じ,二つの大きな爆音が聞こえる。これをソニックブームという。物体のマッハ数が大きく(5程度以上)なると衝撃波と物体との傾きが小さく,ほとんど物体面の境界層に近くなるので,境界層との干渉が著しくなり,物体面上の発熱も大きくなる。
衝撃波を実験室で作るには,じょうぶな細長い管を隔膜で仕切り,その両側に大きな圧力差を与えて,隔壁を破る装置が用いられる。これを衝撃波管といい,低圧部に進行する衝撃波が容易に得られる。なお,気体中でなくても水面波などに生ずる高さの不連続な階段波も非線形性と散逸のつりあいによるものだが,ここでの散逸は粘性のかわりに乱れによるエネルギーの損失である。また自動車などの交通流に起こる不連続な渋滞現象の伝搬では,運動量の損失が起こるとみなされる。
→高速気流
執筆者:橋本 英典
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爆発などによって発生し、気体中の音速より速く進む波。静止した気体中を、気体の音速より速い速度(超音速)で物体(たとえば飛行機)が動くとき、物体により発生した気体の圧力変化は、衝撃波面に集中する。この波面では気体の密度と速度が不連続的に変化する。超音速ジェット機では、マッハ・コーンとよばれる円錐(えんすい)内のみにしかジェット機による圧力変化が伝わらず、円錐面上は衝撃波となっている。また、物体がなくても、気体自身が自らの音速以上で流れるとき、密度と速度が不連続変化をする衝撃波が発生する。たとえば、核爆発がおこれば、その周辺の気体は加速されて超音速で広がり始め、衝撃波が発生する。このような場合を爆風波とよび、高圧のガスの波となって伝播(でんぱ)する。原爆や水爆の爆発で家や橋を吹き飛ばすほどの大きな圧力を示すのは、この爆風波(衝撃波)のためである。衝撃波の前面と後面の圧力の比を衝撃波の強さと定義し、それが決まると、速度や密度がどの程度不連続変化するかは、衝撃波の前面と後面で質量・運動量・エネルギーの三つの保存則を適用することによって求められる。これをランキン‐イゴニオの関係式という。衝撃波面に立ってみると、上流側から超音速の流れが入り、下流側へ亜音速で流れ出している。このとき、上流側の流れの運動エネルギーの一部が熱エネルギーに変わり、高温高圧状態が下流側につくられるのである。星の爆発による1018メートルもの大きさに広がった衝撃波や、太陽からくるプラズマ流のため地球の磁気圏で衝撃波が生じていることなども、よく確かめられている。
[池内 了]
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爆発などによって起こる強烈な圧縮波は,音速より速く伝搬する.これを衝撃波という.衝撃波の前後では,圧力,密度,温度にいちじるしい差が生じる.衝撃波の前方の圧力,密度をそれぞれ p1,ρ1,後方の圧力,密度を p2,ρ2 とすると,次のRankine-Hugoniotの関係式が成立することが知られている.
ここで,γは定圧熱容量と定積熱容量の比である.また,衝撃波の速度vと低圧側での音の速度 c1 とは次の関係で表される.
ここで,
α = (γ + 1)/(γ - 1),β = (γ - 1)/2γ
である.
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…しかし速度が音速(成層圏では約1060km/h)に近づくと抵抗が急に増すため,ふつうのジェット輸送機はその手前の亜音速のM0.8あたりを経済的な巡航速度とし,これは1950年代の初期のジェット輸送機も現在もほぼ変わらない。音速付近の遷音速では,機体表面の気流に,機体との速度差が音速以上と以下のところが生じ,境目に衝撃波が発生して抵抗は増し,機のつり合いも変わるので,継続的な飛行には適さない。飛行速度がほぼM1.4以上になると,機体表面の気流はすべて音速を超えて再び安定し,継続飛行に適した条件が得られる。…
…核分裂反応を起爆に使用しないで高性能火薬,レーザー,荷電粒子等で核融合反応を起こさせる水爆は,研究段階にあると見られる。
【核爆発の効果】
核爆発に関連して衝撃波(爆風),熱線,放射線,さらに電磁パルス等が発生するが,その効果は地表面と爆発点との相対位置によって異なる。通常核爆発形式を(1)高空爆発,(2)空中爆発,(3)地表爆発,(4)地下爆発,(5)水中爆発に分類している。…
…デフラグレーションは日本では爆燃と訳されることが多いが,空気中の酸素の補給なしに進行する燃焼は爆発的でなくてもデフラグレーションと呼ばれる。爆ごうは衝撃波を伴った速い燃焼である。衝撃波とはそれが伝わる媒質中の音波より速い速度で伝わる圧縮波で,衝撃波によって固体物質の破壊が起こる。…
…臨界マッハ数の大きさは物体の形によって決まり,ふつうの翼型では0.7~0.8程度である。主流のマッハ数を臨界マッハ数より大きくすると,図のaに示すように,翼の上面の最大速度の点のまわりに超音速流の領域ができ,この超音速流が再び亜音速流に減速するところに,衝撃波と呼ばれる強い圧縮波が発生する。この状態では翼のまわりの流れに亜音速の部分と超音速の部分が共存することになる。…
…高い圧力の衝撃波が通過した岩石や鉱物に生ずる物理的・化学的な変化の総称。天然では隕石が地表に落下したとき,その落下速度が非常に高速であるため隕石孔を作り,その周囲の岩石に短時間の大きな変形を与える。…
…飛行機が音速を超えて飛行するときに発生する衝撃波が,地上に到達して爆発音として聞こえる現象。ときには窓ガラスを割るような破壊力を発揮することもある。…
… 空気の流れは,その速度が音速に近づくにつれて圧縮による影響が無視できなくなり,音速を超えると流れの性質は急変する。一般にマッハ1を境にして,それ以下の速度の気流を亜音速流,マッハ1以上の気流を超音速流というが,超音速流では圧縮性のためにその中におかれた物体から衝撃波が発生し,それに伴って物体には大きな抵抗が働く。静止した空気の中を飛行機が飛ぶ場合も現象的にはまったく同じであって,超音速飛行を実現するためには,衝撃波に伴って生ずる抵抗をいかにして減らすかということと,その抵抗に打ち勝つ推力を発生できる推進装置を開発することが必要であった。…
※「衝撃波」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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